スパイク・リー監督最新作『ブラック・クランズマン』の原作著者でKKKに潜入を試みたアフリカ系アメリカ人の刑事ロン・ストールワース本人が語る衝撃の実話が公開された。

1979年に黒人刑事が過激な白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)に潜入捜査するという大胆不敵な事件を克明に綴った同名ノンフィクション小説を鬼才スパイク・リー監督が映画化した本作。主人公ロン・ストールワースをデンゼル・ワシントンを実父にもつジョン・デヴィッド・ワシントン、ロンの相棒フリップ・ジマーマンをアダム・ドライバーが演じる。そして監督・脚本・製作のスパイク・リーに加え、ジェイソン・ブラムとジョーダン・ピールが製作に名を連ねる。

本作の同名原作「ブラック・クランズマン」の著者は、1978年コロラドスプリングスで初のアフリカ系アメリカ人の刑事となったロン・ストールワース。警察官を退職後、2014年にKKKへ潜入捜査をした当時の経験を力強く綴った「ブラック・クランズマン」を出版。本を執筆することになったきっかけ、潜入捜査中の出来事やデビッド・デュークとのやり取りについて、そしてスパイク・リー監督についてたっぷり明かした。

―「ブラック・クランズマン」を執筆しようと決めたのはなぜですか?
なぜかというと、1978年のコロラドスプリングスの警察署で、わたしは初めての黒人の刑事だったから。それから、あの警察署ができて以来、最年少の刑事でもあった。当時の仕事のひとつに、調査部のデスクで新聞の内容を毎日観察して、街に悪い影響を与えるようなことが起きていないかチェックする、という業務があった。ある日、広告が目にとまった。そこには「KKKへの情報はこちらにご連絡ください」と書いてあった。そして、私書箱の宛先に、「わたしは白人です。アメリカに住む、アーリア人の家系の純粋な白人です。わたしが嫌いなのは・・・」といった内容のメモを送ってみようと思った。民族に対する意見をはっきりと示し、KKKの一員になって純粋な白人のための活動がしたい、と書いた。そのとき、ひとつミスを犯してしまった。メモに自分の本名を書いてしまったんだ—あの日はどうかしていたと思う。私書箱にメモを送ったあとは、すっかり忘れていたよ。2週間くらいが過ぎたころ、電話がかかってきたんだ。電話のむこうの男性は、地元支部の代表―オーガナイザー(団体)―と名乗り、「きみの手紙を受け取ったよ」と言った。そして、「きみは興味深い考えを持っているので、もう少し意見を聞かせてほしい』と言った。その瞬間に、捜査が始まったんだ。

―この捜査のなかで、最もワクワクしたのはどんなことですか?
デビッド・デュークをやりこめたこと。たぶん、そのときが一番スカッとした気分になったかな。だって、彼はルイジアナ州立大学で政治学の修士号まで取っているんだ。デュークは、話をするのがとてもうまい。「新しいKKKのイメージを担うのは自分だ。新たなKKKの始まりだ」と言っていた。また、黒人を差別する言葉を使わないKKKを再編成しようとしていた。ひとつでも差別用語を使ってしまうと、どんな言葉を足しても、その事実をなくすことはできない。デュークは、公共の場で黒人に対する差別用語を一切使わなかったんだ。プライベートではたくさん使っていたけど、公衆を前にしたときは口に出さなかった。それは、彼のイメージ改革の一部だったんだ。そして、デュークは人前に出るとき、KKKのローブを着なかった。それもイメージ改革。KKKを世間にアピールしたんだ。もっと分かりやすく言うと、ドナルド・トランプがしたように、デュークも世間にKKKと自分の印象を広めたんだ。だから、デュークは頭が悪いわけではない。当時、デュークと電話でやりとりをして、修士号を持っている男に高卒の学歴しかなかった私が戦いを挑んだ。知力の戦いだった。率直に結果を言うと、私がデュークを出し抜いたのさ。この捜査を進めるなかで身震いするような瞬間があった。いま思い出しても、それは変わらない。

―ロン・ストールワースのふりをした刑事に対して、自分の声に似せる練習をしましたか?
私の声真似をさせようとは思わなかったよ。潜入捜査を成功させるうえで大事なことは、本来の自分や性格にできるだけ忠実であることなんだ。潜入捜査中に、その組織のだれかとやりとりをするとき、もし、本来の自分からかけ離れた人物を演じていたら、足元をすくわれてしまうから。だから、潜入捜査のときには、いつもと同じように行動しなくちゃいけないんだ。KKKへの潜入捜査を始めるとき、周りの人から言われたことがある。この捜査を成功させることはできないと。すぐに黒人と白人の声の違いに気づかれてしまうぞ、って。私はこんなふうに返した。「黒人の話し方ってなんだろう?私の言葉遣いや声の抑揚が、白人と比べてどう違うのか分かるように教えてくれないか」と。彼らは、違いを証明することなんてできないとすぐに気づいたようで、捜査を進めることができたんだ。

―作品を観て、当時を思い出しましたか?
自分に関わる出来事が、大きなスクリーンに映し出されているのを観ながら、ひとりで笑っていたよ。どの瞬間もはっきりと思い出すことができた。というか、あの潜入捜査に関することは今でも鮮明によみがえってくる。スクリーンの前に座って、自分の人生の一部が目の前に映し出されていくのを観るのは、ものすごく非現実的な経験だった。この話を、世間の人に観てもらう価値がある、政治的なメッセージになると判断した人がいることも不思議な感じがした。私は1冊の本を書こうと思っただけ。アメリカの人種問題や、トランプの政治について、政治的なメッセージを投げかけるつもりはなかった。スパイクの素晴らしい才能のおかげで、それらの点をつなぐことができた。

―監督としてのスパイク・リーはどうでしたか?
本当に誠実な人だと思った。建前や偽りがなくて、いつも本音で話し、他人にどう思われようと気にしない。このプロジェクトにスパイクが参加することが決まったとき、プロデューサーのひとりが私にこう言った。「スパイクには独自の世界があって、僕たちスタッフは、その世界の住人になる」と。スパイクが、私の物語に価値を見出して、映画化したいと思ってくれたことに感謝している。それから、できあがった作品もすごく気に入っている。自分の人生の一部を、スパイク・リーが映画化して不満に思う人なんているわけがないよ!

本作は2018年8月に全米で公開されると話題沸騰、勢いを落とさず、第91回アカデミー賞では脚色賞を受賞した。黒人警察官ロン・ストールワースの経験した衝撃の実話に、巨匠スパイク・リーがひと味もふた味もきかせ、いま最も観るべき最高に強烈なリアル・クライム・エンターテインメントが誕生した。

「ブラック・クランズマン」


著者:ロン・ストールワース
翻訳:鈴木沓子、玉川千絵子
翻訳監修:丸屋九兵衛
1,500円(税抜)
パルコ出版

映画『ブラック・クランズマン』は2019年3月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開!
監督・脚本:スパイク・リー
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー、トファー・グレイス、アレック・ボールドウィン
ユニバーサル映画 配給:パルコ
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