第33回東京国際映画祭「特別招待作品」部門上映作品『滑走路』の舞台挨拶が11月3日(火・祝)にEXシアター六本木で行われ、水川あさみ、浅香航大、寄川歌太、大庭功睦監督が登壇した。
日本公開前の最新作をプレミア上映する、大作や話題作が揃う「特別招待作品」部門。いじめや非正規雇用といった自らの経験を基に短歌を発表し続けた歌人・萩原慎一郎による「歌集滑走路」。あとがきを入稿した翌月、32歳の若さにして命を絶ち、デビュー作にして遺作となった一冊の歌集は、苦難の中それでも生きる希望を歌い、苦悩を抱える人へのエールとして多くの共感を呼び、自費出版がメインの歌集において異例のベストセラーを記録。原作歌集をモチーフにオリジナルストーリーとして紡がれる本作。水川あさみが扮する翠、浅香航大扮する若手官僚・鷹野、そして新人・寄川歌太が扮する中学二年生の学級委員長。それぞれ悩みを抱えて生きる3人の人生が、やがて一つの道へと繋がっていく―。非正規、いじめ、過労、キャリア、自死、家族現代を生きる若い世代が抱える不安や葛藤、それでもなお希望を求めてもがき生きる姿を鮮烈に描き出す。
拍手が止まないままステージ上に登壇し、本作がこの時期に公開される意義についてお題が出されると大庭監督は「自分の周囲で人との距離感がピリピリしている中で、画面の中でこの映画で誰かの手を握ったりとか誰かと誰かが抱き合ったりして。人と人との距離がゼロになる瞬間がいくつかあるんですね。その時に少しドキッとしたんですよね。あれ、くっついちゃって良いのかなと思って。でもよく考えたら、映画とか小説とかもそうですけど、表現されるものというのは人と人との距離が物理的にも心の距離もですけど、ゼロになる瞬間を描いてきて今まで続いてきたものでもあると思うので、改めて思い知ったというか。実生活における貴重な機会のありがたみみたいのを感じていただけると良いと思います」と思いを込めた。
水川にも同じお題が振られると「もし、この世の中がこの距離感を保ったまますべての物事だったり人との距離感だったり心もそうだし。続いていくととても心が折れそうになる瞬間があったりするんですよね。私たち表現するというお仕事をしている上で、ソーシャルをとることが当たり前になる世の中を受け入れてしまう怖さと、実際私たちもこう向き合いながらということを考えると、今だにちょっと怖いなと思いながら生きているということは正直あります。この映画を初披露して、皆さんに観てもらうことで心をそっと撫でてくれるようなそんな映画になれば良いなと思います」と明かした。
原作の『歌集 滑走路』からお気に入りの一首を披露する場面があり、水川は『自転車のペダル漕ぎつつ選択の連続である人生をゆけ』を選び、その理由について「歌集の中ではシンプルでわかりやすい歌なんですけど。人生って選択であるしその選択を間違っても正解でもなんでもいいから受け入れていくという強さを感じたのでこれにしました」と語った。浅香は『破滅するその前にさえ美はあるぞ 例えば太陽が沈むその前』を選び、理由を「この歌もシンプルであると思うんですけど、感覚的なことで申し訳ないんですが、映画にインする前に読んで感銘を受けた歌と終わったあとに読んで心を打たれた歌でちょっと違ったりして、たまたまこのタイミングではこれが良くて。自分が歳を重ねていった時に読み返してみたらどんな歌が自分に刺さるのか楽しみだったりします」と答えた。
本日、初めての舞台挨拶に登壇となった寄川は『ぼくたちはロボットじゃないからときに飽きたり眠くなったりするさ』を選び「自分はこの歌集のなかで一番共感した歌詞で。すごい飽き性というか何事もあまり続かない感じが自分の中で大きくて。でもその中で唯一この芝居というもので。芝居をしている間は何も考えずに芝居のことを考えられる。他のことをしているの眠くなっちゃうことも多くて。芝居をしているときはそれをすることが楽しいという感情になれるのでこの歌にしました」と答えた。
最後に浅香は「すこし堅苦しいイメージを持たれる方もいると思うんですけど、あまり気負いせずに観てほしいです。歌集と同じようにこの映画もフッと息を吐いて誰かに背中に手を添えてもらえるような作品になっていて。気楽に楽しんでください」とコメントし、水川は「今の世の中って人にとっての豊かさとか幸福なことが見えにくくなっていたりわかりにくい時代だなと思うんですけど、そんな時代でも人のことを救うのは人であったりということを、この映画を観ると救われるような気持ちになってもらえたらなと思います」と挨拶をした。
【写真・文/蔭山勝也】
映画『滑走路』は2020年11月20日(金)より全国で公開!
監督:大庭功睦
出演:水川あさみ、浅香航大、寄川歌太、木下渓、池田優斗、吉村界人、染谷将太、水橋研二、坂井真紀
配給:KADOKAWA
©2020「滑走路」製作委員会
第33回東京国際映画祭は2020年10月31日(土)~11月9日(月)に六本木ヒルズ、EXシアター六本木ほかで開催!
©2020 TIFF