『すばらしき世界』のトークイベントが2月5日(金)に都内で行われ、仲野太賀、西川美和監督が登壇した。
本作は、「復讐するは我にあり」で直木賞を受賞した佐木隆三の小説「身分帳」を原案とした西川美和監督最新作。これまでオリジナルにこだわり続けた西川美和監督が、初めて実在の人物をモデルとした原案小説をもとに、その舞台を約35年後の現代に置き換え、徹底した取材を通じて脚本・映画化に挑んだ。主演は、国内外でその演技力を高く評価され続ける名優・役所広司。ほかに仲野太賀、長澤まさみ、橋爪功、梶芽衣子、六角精児、北村有起哉、安田成美らが名を連ね、名実ともに豪華なキャストたちが西川監督のもとに集結した。
今まで手掛けてきた作品を“我が子”に例え、「5人を育てあげた後に、最初はあたらな恋人ができた感じでしたが、『すばらしき世界』は6作目。前作の発表から5年が経ちましたが、ようやく巣立ってくれる、子供が成人していく感覚です」と語った西川監督。仲野が演じるテレビディレクター津乃田役のキャスティングは、役所広司演じる主人公・三上との年齢的なアンバランスさ、バディ的な側面を考えて行われたという。中学生のときに西川監督の『ゆれる』に衝撃を受けて以来、西川監督は数少ない憧れの人だった語る仲野は「その時はオーディションじゃないですけど、一回会いましょうということで、西川さんの事務所に行くことになったんです、その時は信じられない気持ちでいっぱいでした」と振り返った。
西川監督のオフィスには、仲野はひとりでふらっと訪れたというが、そんな彼の姿に西川監督は「これは作戦なの?こいつ、分かってるなと(笑)ひとりできてくれたその感じで、距離が縮まったように思ったんです。そこから脚本を読んでどう感じたのか、そういうことを質問して、太賀くんから出た言葉をヒントに改訂していきました。演じる役の性格とその俳優の性格がリンクしている方が良い時とそうじゃない時がある。津乃田役は近い方が良いと思いましたし、太賀くんには、(この役に必要な)観察者の目をもっている気がしたので、実際に会って確かめたいと思いました」と明かした。
大勢のスタッフに親しまれ、現場随一の愛され俳優、仲野のことを西川監督は愛情を込めて“妖怪・人たらし”と呼んでおり、本作の発案から公開直前まで、約5年の思いを綴るエッセイを中心にまとめた近著「スクリーンが待っている」の一編「妖怪」の章がそれにあたるのだが「(太賀くんは)スタッフと俳優の狭間にいるような人。現場にいつ来たか分からない。照明部がひとり増えたのかなと思ったら太賀くんだったということもあって。どんなに親しみやすい俳優さんでも、現場に入ってきた瞬間に空気が変わるんですよ。緊張感があって、俳優が帰るとグッと力が抜けるような感じ。太賀くんにはそれがないんですよね」という西川監督に、仲野も笑ってみせた。
本作でやり手のTVプロデューサー吉澤役として長澤まさみが出演しているが、「僕としては強い縁を感じるし、信頼も置いていただいているなという自覚もあって。僕も信頼していますし、長澤さんだったら姉弟もできますし、上司も部下もできる。信頼関係があるので、長澤さんとの関係は楽しいですね。役者も、『はじめまして』で芝居をすることはありますけど、信頼関係があるとより大胆にならざるを得ないというか。スッと入っていける感じがあります」という仲野。その言葉を聞いた西川監督は「キムラ緑子さんは、役所さんとの共演が一番多いとおっしゃっていたんですよ。それで(劇中で見せる)あのお芝居じゃないですか。二人のシーンはとてもいいシーンなんです。長澤さんと太賀くんもそうなるかもね」と語ると、仲野も「波長も合うし、信頼関係や化学反応もあるので、いろんな組み合わせでやれたらいいなと思います」と振り返った。
長澤は役所との共演にものすごく緊張していたそうで、その姿を間近で見ていた仲野は「西川組だからというのもあると思います。長澤さんのソワソワした感じもなかなか見ることができない(笑)普段は、どっしりという感じではないけど、(主演という)軸が長澤さんにある現場でご一緒するところが多かったんです。でも今回は役所さんという軸があって、素直に憧れや尊敬もあるし、こっちが勝手に感じてしまっているだけなんですけど(役所さんに)どこかで
試されているような気になってしまう。長澤さんは、一個一個の作品に誠実に向き合っている人なんだと改めて感じました」と振り返った。
イベントの終盤では、2月7日に28歳の誕生日を控える仲野へ、西川監督からサプライズでプレゼントが用意され、上田義彦、ソール・ライターという2人の写真家の本を手渡された仲野は「ありがとうございます。うわぁ、うれしい~!!」と感激した様子でコメント。会場からは祝福の拍手が鳴り響いた。
映画『すばらしき世界』は2021年2月11日(木・祝)より全国で公開!
脚本・監督:西川美和
出演:役所広司、仲野太賀、六角精児、北村有起哉、白竜、キムラ緑子、長澤まさみ、安田成美/梶芽衣子、橋爪功
配給:ワーナー・ブラザース映画
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会