実在した男をモデルに“社会”と“人間”の今をえぐる問題作『すばらしき世界』の本編映像が解禁された。

本作は、「復讐するは我にあり」で直木賞を受賞した佐木隆三の小説「身分帳」を原案とした西川美和監督最新作。これまでオリジナルにこだわり続けた西川美和監督が、初めて実在の人物をモデルとした原案小説をもとに、その舞台を約35年後の現代に置き換え、徹底した取材を通じて脚本・映画化に挑んだ。主演は、国内外でその演技力を高く評価され続ける名優・役所広司。ほかに仲野太賀、長澤まさみ、橋爪功、梶芽衣子、六角精児、北村有起哉、安田成美らが名を連ね、名実ともに豪華なキャストたちが西川監督のもとに集結した。

現代社会に鋭く切り込みつつも、西川監督の生み出す軽やかで人間味に溢れたユーモアが所々で顔を覗かせるのも本作の見どころのひとつとなっている。今回公開された本編映像では、「今度こそカタギになる」と強く胸に誓った三上(役所広司)がドライバーの職を得るため服役中に失効した免許証をゼロから取り直すため、夜な夜な学科の勉強にも取り組み、ついに迎えた技能試験の様子を収めている。

緊張の面持ちながら刑務所仕込みの癖はそのままに真っすぐすぎるその行進と響き渡る点呼で気合十分で、意気揚々と車に乗り込みいざ出発する。乗り込めば、エンジンを派手に吹かし、ギアもあやふや、シートベルトなんてもってのほか。しまいにはワイパー誤作動連発の凡ミスの嵐でこんなはずじゃ・・・緊張と焦りが止まらない。(この男と一緒なのか・・・)そう思わずにはいられない不運な同乗者さながらに、まるで後部座席に一緒に乗っているかのような気分になる。なんとも言えない空気が車中に漂う中で三上が懸命であればあるほどに、堪えきれなくなる。この不器用で真っすぐな男は、無事にこの試験をクリアすることができるのか!?

三上の身体に染み付いている行進は、役所が『うなぎ』で今村昌平監督の演出によるものだそう。本作の撮影時には「今の受刑者はそんな歩き方はしない」ということだったが、役所は「三上は”ベテラン“の受刑者だから」と明かしている。三上正夫という男を演じるにあたり役所はミシン掛けやケアホームのベッドシーツ替えなど、様々な技術を身に付けている。壮絶な前科をもつはずの三上という男に役所が魂を吹き込むと、不器用で荒々しくもどこか愛らしく、一挙手一投足から目が離せない。日本映画界の大黒柱たる所以を、怪優・役所広司の姿をスクリーンで見ることができる。

本編映像

映画『すばらしき世界』は2021年2月11日(木・祝)より全国で公開!
脚本・監督:西川美和
出演:役所広司、仲野太賀、六角精児、北村有起哉、白竜、キムラ緑子、長澤まさみ、安田成美/梶芽衣子、橋爪功
配給:ワーナー・ブラザース映画
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

【文/片岡由布子】