『マイスモールランド』が2月12日[現地時間]に開催中の第72回ベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映され、川和田恵真監督が登壇、嵐莉菜と奥平大兼が映像でメッセージを寄せた。
クルド人の家族とともに生まれた地を離れ、幼い頃から日本で育ち、同世代の日本人と変わらない、ごく普通の高校生活を送っていた17歳のサーリャは、あるきっかけで在留資格を失い、家族の日常が一変する――。本作では、そんな過酷な環境な中で主人公サーリャが、東京に住む日本人の少年・聡太との出会いをきっかけにアイデンティティに葛藤しながらも成長していく物語が描かれる。是枝裕和監督が率い、西川美和監督が所属する映像制作者集団「分福」の気鋭の新人監督・川和田恵真監督の商業映画デビュー作で、日本、ドイツ、イラン、イラク、ロシアの5か国のマルチルーツを持つ主演の嵐莉菜が在日クルド人の高校生・サーリャを演じる。
ジェネレーション部門の上映会場House of World Cultures(Haus der Kulturen der Welt、通称HKW)に設営されたレッドカーペットに登場し、フォトコールに応じるなど、現地メディアと観客から歓迎をうけた川和田監督。今年はコロナ対策のため約50%の観客で実施されたが、500席の客席を持つ本作のプレミア上映回のチケットは販売後すぐに完売。エンドロールが始まった直後から大きな拍手が沸き起こった。
上映後のQ&Aには川和田監督が登壇。「本作のインスピレーションはどこからきたのか」という問いに、川和田監督は「2016年ごろ、自分と年齢の変わらないクルド人女性兵士の写真を見た」ことがきっかけだったと話し、そこからリサーチを始め、「その頃まで日本に住むクルド人コミュニティの存在を知らなかった」と答えた。
「どういった想いを持ってこの作品を作ったのか」という質問が投げられると、「ドキュメンタリーも作られ、日本に住むクルド人に対する理解は少しずつ広まっていると思うのですが、実際、日本では難民としてほとんどの状況で認められない。でも日本を頼って逃れて来た人たちがいる。そういう人たちのことを、ほとんどの人が知らない。知らなくても<居ない>ことにしないでほしい。そういう気持ちを持って、この映画を作っていました。そしてフィクションとして描いたからこそ、いろんなルーツを持つ人にも、自分の物語として、見てもらえる映画になったのではないかと思います」とその想いを語った。
続いて、在留ビザの延長が叶わず、間も無く帰国予定であるという男性は、自身の体験と劇中の主人公たち家族とリンクした感情を交えながら「今後こういった作品を作り続けていかれるのでしょうか?」と質問。川和田監督は、自分の体験を明かしてくれたことに感謝を述べた後、「私自身が、日本とイギリスのミックスであるため、自分が何人か?という国籍だったり、アイデンティティは、ずっと関心が強くあることなので、今後も(描くテーマの)軸になっていくと思います」と明かした。川和田監督は「Q&Aでは、想いが溢れて涙を流してくれる方もいました。場所によってこんなにリアクションが変わるんだなと、日本での公開も楽しみにしています」と映画祭での観客の温かい反応に感謝していた。
ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門のヘッドプログラマーのセバスチャン・マルクトは「本作の今までになく、大変に興味深いのは、我々が通常目にすることのない、日本におけるクルド人家族の難民問題を描いていることです。そして、このテーマを、子供達の目線と、素晴らしい映像で描いている。(主人公の女の子が)目の前の問題に対峙しつつ、2つの世界の狭間にいなければならず、クルド社会と彼女自身が生まれ育った日本の“普通の”社会を繋げる役も担っています。ここの物語は世界共通のテーマです。様々な希望が矛盾を生み出してしまう。川和田監督は、その社会の矛盾を、とても美しい映画らしい構成で物語に練りこんでいると思います」と称賛している。
本映画祭は、現地時間 2月20日まで開催予定で、このジェネレーション部門からもグランプリ作品が選ばれる。(授賞式は現地2月16日)。映画『マイスモールランド』は、5月6日全国公開。
メッセージ映像
『マイスモールランド』は2022年5月6日(金)より新宿ピカデリーほか全国で公開!
監督・脚本:川和田恵真
出演:嵐莉菜、奥平大兼、平泉成、藤井隆、池脇千鶴、アラシ・カーフィザデー、リリ・カーフィザデー、リオン・カーフィザデー、韓英恵、サヘル・ローズ
配給:バンダイナムコアーツ
©2022「マイスモールランド」製作委員会