『流浪の月』が4月30日に第23回全州国際映画祭でワールドプレミア上映され、李相日(監督)、ホン・ギョンピョ(撮影監督)が登壇、広瀬すずと松坂桃李がコメント映像を寄せた。

実力と人気を兼ね備えた俳優・広瀬すずと松坂桃李の2人が紡ぐ物語は、2020年本屋大賞を受賞し、同年の年間ベストセラー1位(日販単行本フィクション部門、トーハン単行本文芸書部門)に輝いた凪良ゆうによる傑作小説が原作。10歳のときに誘拐事件の“被害女児”となり、広く世間に名前を知られることになった女性・家内更紗を広瀬が、その事件の“加害者”とされた当時19歳の青年・佐伯文を松坂が演じる。いつまでも消えない“被害女児”と“加害者”という烙印を背負い、息を潜めるように生きてきた2人。誰にも打ち明けられない秘密をそれぞれに抱えたまま、15年後に再会した2人が選んだ道とは―。監督を務めるのは李相日。

韓国で4月28日~5月7日に開催の第23回全州国際映画際のワールドシネマ部門にて、本作『流浪の月』が上映され、李相日(監督)、ホン・ギョンピョ(撮影監督)による舞台挨拶が行われた。全州国際映画祭は、2000年にスタート。世界のインディペンデント映画やオルタナティブ映画を数多く紹介する国際映画祭として注目を集めており、幅広い年齢層の熱狂的な観客が参加することでも知られている。本作が上映されたワールドシネマ部門は、その年の最も重要なフィクション映画とドキュメンタリー映画のためのノンコンペティション部門であり、現代のトレンドを代表する作品が上映される。日本映画の『流浪の月』に韓国の著名スタッフが参加する点が評価され、出品が決定した。同部門には昨年、西川美和監督『すばらしき世界』が出品されている。

上映チケットが発売の瞬間に完売するほどの高い人気を見せた本作の上映は、広瀬すずと松坂桃李からのコメント映像からスタート。2人は韓国語で「アンニョンハセヨ(こんにちは)」と挨拶、「李監督とホンさんの息の合ったコンビネーションで映し出された更紗と文の姿が、韓国でどのように受け止められるのか楽しみです」と観客へメッセージを贈った。2時間半の上映が終了すると、約230人の観客で満席の場内は、割れんばかりの拍手に包まれた。

李監督は「全州国際映画祭には以前審査員として参加させていただくなどご縁があり、その時に次回は自分の作品を持って参加したいと思っていた。そして実はもうひとつご縁があって、ポン・ジュノ監督の『パラサイト』の撮影現場の見学に行った際に(ポン監督の紹介で)ホンさんと出会うことができたが、それがここ全州だった。今日こうしてその全州で、ホンさんと撮った『流浪の月』の上映ができたことをとても嬉しく思っている」と全州との縁深さに触れた。ホンは長いキャリアの中でも全州映画祭に参加するのは初めてだそうで「こうやって観に来てくださった皆さんとお会いできて嬉しい」と喜びを伝えた。またホンは「李さんの作品は以前から観ており、特に『怒り』が好きだった。好きな監督だったので快諾した」と李監督からのオファーを受けた理由も明かした。

観客からは様々な視点の質問が飛び出した。劇中に出てくる象徴的な川や月などの風景については、ホンが「月はCGではありません」と全て実景だったと明かし、「日本は韓国と違って空気が綺麗。撮影をした松本は特に風景が綺麗なところで、陽が落ちるまでの時間が長くてブルーがちょっと強め」と、自身を感激させた景色の美しさを振り返った。それを受けて李監督は「ホンさんが、(日本では)月がよく見えるなどと喜んでいて、普段見ている時(自分は)そこまで気が付けなかったので、今回はホンさんの視点に影響を受けた部分が大きかった」と話した。また「ホンさんが早めに覚えた日本語は“月”、それから常に風が吹いたらそれを取り入れようという意識があったので“風”。あとは……“めしおし”(※撮影の都合で食事時間を後まわしにして撮影を続けること)でしたっけ(笑)」とエピソードを披露し、観客の笑いを誘った。

これまで監督した『悪人』『怒り』などの作品と本作に共通しているテーマがあるかという質問には「一つにはイ・チャンドンさんの影響があるかもしれません」と切り出し、「社会の中で傷つき声をあげられない人たちの声を掬い取ることも映画の役割の大きな一つだ、というイ・チャンドンさんの言葉を若い頃に読んだことがあり、ものすごく感銘を受けた。自分も全く同じように思っていた。イ・チャンドンさんと同じようにはできないけれど、自分なりに、映画を作ることで目をそらさないように、通り過ぎていかないようにしているかもしれません」と、韓国の名匠イ・チャンドン監督の言葉に言及しながら、李監督自身が思う、映画を撮ることへの意味について力強く話す場面もあった。イ・チャンドンといえば、直近作の『バーニング 劇場版』はホンが撮影監督を務めているが、2人の違いを尋ねられたホンは「物語の伝え方には違いがあるが、コンテやカット割りをすべて決めずに、現場で相談しながら決めていく撮影方法は似ている」と両者の共通点をあげた。

また、「すべての人に共感を得られる作品というわけではないと思うが、なぜこういう映画の作りにしたのか」と問われると、李監督は「もしかしたら、人と人が“出会う”時というのは、年齢とか性別とかあるいは人種とかを超えて、本当に魂と魂がくっつきあう瞬間というものがあるんじゃないのかなという気がしている。人生の中で、生まれてから死ぬまでの間にそういうつながりを持てる人がいったいどれだけいるだろうかと考えた時に、やっぱり、あの2人にそういうつながりが存在したということが奇跡だと思った。そのことが、伝わる人にはきっと伝わるのではないかと思う」と本作に込めた、願いにも近い気持ちを明かした。

他にも、キャスティングについてやカメラアングルの意図、小説から映像化する際に悩んだ点についてなど、質問は40分の時間いっぱいまで途切れずに寄せられ、韓国からの注目度の高さを感じさせた舞台挨拶は大きな盛り上がりを見せて終了した。その後も、李監督とホンの前には、サインを求める観客たちの長蛇の列ができるなど、最後まで人気ぶりを見せていた。

【提供写真・オフィシャルレポート】

『流浪の月』は2022年5月13日(金)より全国で公開!
脚本・監督:李相日
出演:広瀬すず、松坂桃李/横浜流星、多部未華子/趣里、三浦貴大、白鳥玉季、増田光桜、内田也哉子/柄本明
配給:ギャガ
©2022「流浪の月」製作委員会