アカデミー賞にノミネート、受賞した作品を振り返る第2弾は現在公開中の作品を紹介。
今回紹介する3作品は作品賞をはじめ、監督賞、脚本賞など多くの賞にノミネートされている。共通点も多くエブエブ、逆転のトライアングルは個性的で派手な作品。また、エブエブとフェイブルマンズはどちらも家族や母と子を題材にしている心温まる作品となっている。
『逆転のトライアングル』
監督:リューベン・オストルンド
惜しくも受賞は逃したが、作品賞、監督賞、脚本賞にノミネートされており映画自体は非常に高い評価を得ている。ラブストーリーでありパニックコメディやスリラーともいえる本作は階級社会や理不尽な社会のルールなどを覆していく。アルコール依存症の船長を演じるウディ・ハレルソンをはじめ、俳優陣が個性的な役柄を見事演じブラックユーモア満載なシーンが多く笑いを誘う。また本作で注目したいのは、トイレの清掃婦を演じているドリー・デ・レオン。彼女はゴールデングローブ賞でフィリピン人初の助演女優賞ノミネートを果たし、本作では圧倒的な存在感を見せつけその目力に鳥肌が立つ。
モデル・人気インフルエンサーのヤヤと、男性モデルカールのカップルは、招待を受け豪華客船クルーズの旅に。リッチでクセモノだらけな乗客がバケーションを満喫し、高額チップのためならどんな望みでも叶える客室乗務員が笑顔を振りまくゴージャスな世界。しかしある夜、船が難破。そのまま海賊に襲われ、彼らは無人島に流れ着く。食べ物も水もSNSもない極限状態で、ヒエラルキーの頂点に立ったのは、サバイバル能力抜群な船のトイレ清掃婦だった―。
『フェイブルマンズ』
監督:スティーヴン・スピルバーグ
映画史にその名を刻んできた巨匠、スティーヴン・スピルバーグ監督渾身の自伝的作品。共同脚本兼プロデューサーを努めているトニー・クシュナーや『シンドラーのリスト』『E.T.』など過去27作品ものタッグを組んできたジョン・ウィリアムズと名コンビの絆を覗かせる。特に劇中の“母と子”をテーマにした曲は劇場を出た後も物語を思い出させる映画の大切な一部となっている。”悪者は登場しない”天才映画監督を生み出した一つの家族の物語であり、映画をこよなく愛す人たちへ、夢を持つ人たちへスピルバーグからの贈り物のような作品となっている。
初めて映画館を訪れて以来、映画に夢中になったサミー・フェイブルマン少年は、8ミリカメラを手に家族の休暇や旅行の記録係となり、妹や友人たちが出演する作品を制作する。そんなサミーを芸術家の母は応援するが、科学者の父は不真面目な趣味だと考えていた。そんな中、一家は西部へと引っ越し、そこでの様々な出来事がサミーの未来を変えていく――。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
脚本&監督:ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート
第95回アカデミー賞はエブエブ旋風と言っても過言ではないほど、作品賞、監督賞をはじめ最多7部門受賞した。
きっとあの時に他の選択肢をしていたら・・などと考えたことがある人もいるだろう。そんな摩訶不思議な別世界を監督のダニエル・クワン、ダニエル・シャイナートが作り出し、俳優陣が見事に演じ分けている。また、アカデミー賞主演女優賞授与式のスピーチでミシェル・ヨーは「世界中のお母さんたちはまさにスーパーヒーローである」と言ったように毎日、母親、妻、そして娘として家族の生活を支えるだけでなく経営者としても悩みを抱える主人公はまさにスーパーヒーローのよう。カオスな作品でもあるが、あらゆる視点で共感もされるのと同時に家族への感謝の気持ちも感じさせてくれる作品である。
経営するコインランドリーの税金問題、父親の介護に反抗期の娘、優しいだけで頼りにならない夫と、盛りだくさんのトラブルを抱えたエヴリン。そんな中、夫に乗り移った“別の宇宙の夫”から、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と世界の命運を託される。まさかと驚くエヴリンだが、悪の手先に襲われマルチバースにジャンプ。カンフーの達人の“別の宇宙のエヴリン”の力を得て、闘いに挑むのだが、なんと、巨悪の正体は娘のジョイだった…。
【文/片岡由布子】