「遠野物語」に着想を得た唯一無二の物語『山女』の本編映像が解禁された。
大飢饉に襲われた東北の寒村。先代の罪を負った家の娘・凛は、村人から蔑まれながら息をひそめて生きていた。そんなある日、凛の父・伊兵衛が村中を揺るがす事件を起こす。村人たちから糾弾される父をかばい、自ら村を去り禁じられた山に入る凛を待ち受けていたのは、伝説の存在として恐れられる“山男”だった…。柳田國男の名著「遠野物語」から着想を得たオリジナルストーリーとなる本作。
今回解禁された本編映像は、凛と弟の庄吉(込江大牙)が、父親の伊兵衛(永瀬正敏)が寝静まった夜、囲炉裏の僅かな火を頼りに草鞋を編む日常を捉えたシーン。先代の罪を背負い、卑しい身分に貶められている凛の一家は、間引きされる赤ん坊を川に捨てる役目や死体の埋葬の仕事を引き受け、家では草鞋編みの内職を行い、せめてもの食い扶持を稼いでいる。
家の前に落ちてきた雀の雛を埋めたと告げる庄吉は「その時思ったった、こいづはこれで終わりなんだべかどて。早池峰山さ行がねぇのがな?」と問いかけ、「あそごさ行くのは人間の魂だけだ」と答える凛。庄吉が「人間なら、みんな行けるのが?」と尋ねると、「罪人も善人も、貧乏人も金持ちもみんなだ。早池峰の女神様は誰だって迎えでくれんだもの」と穏やかな表情を浮かべながら話す凛の姿から、彼女がどんな理不尽な逆境の中でも早池峰山を心の拠り所として、ひたむきに一家を支えてきたことが窺える。穏やかな時間も束の間、悪夢にうなされた伊兵衛が叫びながら飛び起きる。手を止めて様子を窺う凛たちを伊兵衛が一瞥すると、「薪いもったいねえ…はえぐ寝ろ」と言い放ち再び横になるところで映像は終わる。
これらのセリフは全て、本作の舞台であり、早池峰山を有する岩手県遠野市の方言である遠野弁だ。脚本の段階でセリフを遠野弁にしていたという福永監督は「遠野弁の方言のセリフを方言の先生に発音してもらったものを録音して、俳優の皆さんと共有して、撮影前にしっかり準備してもらいました」と事前準備を徹底したという方言へのこだわりをみせた。また、「やはり昔の話なので、どうしてもフィクション色は強くなるんです。それでもできるだけリアリティを持たせたくて、昔話されていた言葉により近い方言を生かすことで、少しでも現代との差を埋めようとしました」と続け、この遠野弁が作品の世界観を構築するための重要な要素であることを明かした。
これに対し山田杏奈も「遠野弁のセリフを話すことで、あの時代のあの世界に生きている子だという自覚も芽生えました」と話すように、遠野弁のセリフが作品のリアリティだけではなく、演者の役へのアプローチにも作用していたことが分かる。さらに、山田は家で実際に草履を編む練習をしていたと言い、余念がない準備で撮影に臨んでいたようだ。本シーン以外にも全編にわたって方言が徹底されている本作、監督のこだわりと万全の準備で応えた実力派俳優たちの遠野弁のセリフにも注目だ。
本編映像
『山女』は2023年6月30日(金)よりユーロスペース、シネスイッチ銀座ほか全国で順次公開
監督:福永壮志
出演:山田杏奈、森山未來、二ノ宮隆太郎、三浦透子、山中崇、川瀬陽太、赤堀雅秋、白川和子、品川徹、でんでん、永瀬正敏
配給:アニモプロデュース
©YAMAONNA FILM COMMITTEE