『アリスとテレスのまぼろし工場』プレミア試写会 「誰かをまっすぐに好きになる気持ちはすごく素敵なこと」

『アリスとテレスのまぼろし工場』の舞台挨拶付きプレミア試写会が9月4日（月）に新宿ピカデリーで行われ、上田麗奈、久野美咲、岡田麿里監督が登壇した。

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などの脚本を担当し、監督デビュー作となった『さよならの朝に約束の花をかざろう』で国内外から高い評価を得た岡田麿里監督最新作でMAPPA初のオリジナル劇場アニメーション。突然起こった製鉄所の爆発事故により全ての出口を失い、時まで止まってしまった町が舞台。いつか元に戻れるようにと、住民たちは何も変えてはいけないルールを作り、鬱屈とした日々を過ごしていた中で、中学三年生の正宗は気になる存在の謎めいた同級生の睦実に導かれ、製鉄所の第五高炉へと足を踏み入れる。そこにはいたのは喋ることのできない、野生の狼のような少女―。2人の少女と正宗との出会いは、世界の均衡が崩れるはじまりだった…。主人公・菊入正宗役を榎木淳弥、正宗の同級生・佐上睦実役を上田麗奈、謎の少女・五実役を久野美咲が演じる。

本作の“変化を禁じられた街”という設定について「変わっていくことがいいこと、変わらないことはダメなことみたいに言われて育ってきた」という岡田監督は「時代的にも何となく閉塞感を感じる中で、変化ができないってこういうことなのかなと思うようになってきて。変化は勝手にしちゃうんだなと思いました。その辺を書いていければ」と振り返った。

そんな世界観について「私はポジティブに受け取ってしまうかもしれない」という上田は「うちに猫ちゃんがいるから。ずっと変わらずにいられるなら幸せなことだなと思っちゃって、そういう意味ではポジティブに受け止められる」と明かした。一方で久野は「この世界観が息苦しく感じてしまったほうで。でもネガティブというわけではなく。私たちの日常でも、本来望んでいる状況ではないけど、安定して毎日暮らせているなという感覚は誰しも感じながら生きているのかな。日常生活と重ねられる部分もあると思いました」と語った。

本作のキャッチコピーに“恋する衝動が世界を壊す”とあるが、「恋より愛が偉いみたいな感じがあるけど、比べられるものではない。全く違うものなのかなと思って。恋は誰でもできるものではないと思う」と自身の考えを語る岡田監督。「恋っていいなと思いました。もどかしいな、苦しいなとか、そういうのを見ていて感じた」という上田。久野は「最後まで五実を演じたからこそ、自分の人生と重ね合わせられた瞬間があって。ご覧になるみなさんもそういう瞬間を味わえるのがこの作品なんじゃないかと思います」と言葉を選びながら、本作の印象を語った。

そんなアフレコでは、榎木淳弥と上田、久野が向かい合って演技をしていたというが、このことについて上田は「3人の存在をリアルに感じながらお芝居をしたいシーンだったので、そのシーンに限ってキャスト陣から『向き合って、画面や台本越しに役者さんが見えるという形でアフレコをしたい』と提案させていただいて」と、キャストからの提案だったことを明かした。

さらにイベントでは、本作の主題歌「心音（しんおん）」を担当する中島みゆきから音声メッセージが到着。「アニメーションの世界と中島みゆきの組み合わせは、異種格闘技みたいな気がするんですけど、びっくり感も含めてお客様に楽しんでいただけたらうれしいです。とにかく岡田麿里様を尊敬申し上げております」という中島のメッセージに岡田監督は「毛穴が開きまくってる…本当にいい曲なんです」と恐縮しきりの様子だった。

最後に上田は「決してさわやかではない少年少女たちの青春というイメージですけど、曇り空が似合うな、さびた匂いを感じられるなと思いながらこの映画にどっぷりとつかっていくと、いろいろな感情が心の中に渦巻いていって、爆発しそうになる気がしました。2回目、3回目とどんどん膨らませて見ていただけたら」、久野は「たくさんのスタッフさん、キャストのみんなの熱量と愛と勇気と、いろいろな感情が合わさってできている作品で。五実を演じて、完成した作品を観て、誰かをまっすぐに好きになる気持ちはすごく素敵なことだし、好きという気持ちはいろいろなことを飛び越えちゃうんだなと感じられて、ご覧になる方も感じられる作品だと思います」、岡田監督は「本当に完成するのかなとスタッフ一人一人が不安だったと思うんですけど、みんなの熱が途切れなかったというか、スタッフの熱量と愛情で走りきれたなと思います」とメッセージを送った。

なお、登壇を予定していた榎木淳弥は新型コロナウイルス感染のため欠席となった。

【写真・文／編集部】