生と死をめぐる2つの物語を実験的アプローチで紡いだ小辻陽平の長編監督デビュー作『曖昧な楽園』が11月18日(土)より公開されることが決定した。

第36回東京国際映画祭コンペティション部門に正式出品される新鋭・小辻陽平監督による長編デビュー作『曖昧な楽園』は、新鋭・小辻陽平による長編監督デビュー作。交通量調査員をしながら、同居する母の介助をする達也と、宇宙基地のような巨大団地に住む植物状態の老人を世話するクラゲ―――決して交わることのない、生と死をめぐる2つの物語を、SF映画のような独特の雰囲気で映し出す167分のロードムービー。「曖昧で不確かな瞬間をこそ映したい」という監督の信念のもと、脚本作りから演出まで、「即興」を重視した手法が採用され、監督と俳優たちはつねに対話を重ねながら物語を構築した。

今回の劇場公開決定に合わせて、ポスタービジュアルと場面写真が解禁され、諏訪敦彦(映画監督)、月永理絵(ライター、編集者)、やまだないと(漫画家)、髙橋泉(脚本家)、小川あん(俳優)、仙頭武則(映画プロデューサー)、小原治(ポレポレ東中野)から絶賛コメントが到着した。

なお、本作『曖昧な楽園』は、10月23日より開幕する第36回東京国際映画祭コンペティション部門でワールドプレミアとなり、上映は26日(木)20:10~TOHOシネマズ日比谷 スクリーン12、28日(土)20:05~ヒューマントラストシネマ有楽町、31日(火)16:35~丸の内ピカデリー2の3回にわたり上映される。26日・31日には監督、キャストによる舞台挨拶とQ&Aが実施される。

諏訪敦彦(映画監督)コメント

あなたがカメラの前に立ってくれて、私がそれを撮影する。あなたが映画のなかに存在することの感動。他には何もいらない。ただそれだけで奇跡的なことなんだ...。映画を撮っていてそう思えた瞬間があったことを思い出した。物語ることよりも大切な瞬間がある。死んでいることと生きていることの隙間を彷徨う者たちの静止したような時間が重ねられる中で、映画は彼らが「存在すること」と出逢おうとする。交通量調査をする達也にとって無為な時間に堆積する母親の抑圧が感情に点火する瞬間が訪れるが、雨とクラゲの場合、発火する感情もないまま死に接近し、生きているものと死にゆくものとの存在の差を測定するように彼岸への道行きを開始する。彼らは孤独であり、世界と断絶した闇の中にいるのかもしれないが、『曖昧な楽園』は希望を捨てない。映画=カメラはそれが誰であれそこに写る者を決して否定しない奇跡的な装置であることをこの映画がよく知っているからだと思う。この果敢な挑戦を讃えたい。

月永理絵(ライター、編集者)コメント

時が止まったような巨大な団地。足元でかすかに点滅する光。車が行き交う灰色の道路。まるで遠い星のどこかを映したような無機質さにまず引き込まれた。そしてそこを行き交う人々はみなぼんやりと輪郭を失っていて、なるほどこれはSF映画なのだと確信したが、その確信は間違いだったかもしれない。でもたしかにここに映るのは、どこかには存在するがどこにも存在しない場所であり、私はその曖昧さに惹かれたのだ。

やまだないと(漫画家)コメント

現実を生きる為の非現実。哀しみのない世界を夢みて悲しみを受け入れる。

髙橋泉(脚本家)コメント

生きていない生。死んでいない死。その曖昧な時間が見事に紡がれる。
時折り⻘く燃え上がり、音を立ててパチパチと弾ける。送り火を見守っている時のように、気持ちが澄んでいく。
好みを超えて食らってしまった。

小川あん(俳優)コメント

実体を掴もうとするほど、するすると零れ落ちていく。思いを口にすると、自分の言葉じゃなくなってしまう。
そんな時、内に残るのは“曖昧”な感覚。私は一生この感覚から逃れられないでいる。けれど、この映画はそんな“曖昧”が溶けていく。溶けて、音を立てず静かに消えていく。情緒の流れるところに。

仙頭武則(映画プロデューサー)コメント

『曖昧な楽園』には映画づくりに対する真摯な姿勢が映っている。それは、小辻陽平の日々を生きる姿。

小原治(ポレポレ東中野)コメント

生も死も、交わらない2つの物語も、翳りの中でスペクトラムに関わり合っている。
ショットの一つ一つ、その一秒一秒が、目の前からはぐれてしまった世界との関わりを取り戻そうとするかのように。
そこに映画の呼吸が生まれている。
全10,063秒。こんな呼吸を共にするために映画館の暗闇がある。
『曖昧な楽園』を映画館で味わってほしい。

ストーリー

交通量調査員として働く達也(奥津裕也)は、身体の不自由になってきた母(矢島康美)と、一軒家で二人暮らしをしている。夜毎、母からのトイレを報せる呼び出しブザーが鳴り、日常的な介助に応じている達也。行き交う人々の数をかぞえて記録するばかりの仕事にも、カプセルホテルで過ごす夜にも、どこにも居場所を見出せずにいる。クラゲ(リー正敏)は、顔見知りだった独居老人(トム・キラン)の部屋へ毎日のように通い、植物状態の老人の世話をしている。だが、老人の住む団地は老朽化によりもうすぐ取り壊されようとしていた。ある日、久しぶりに再会した幼馴染の雨(内藤春)を老人の部屋に案内するクラゲ。ささやかな交流を深めていくなかで、団地の取り壊し期日は迫っていく。やがてクラゲと雨は、老人を連れてバンで旅に出るが…。それぞれの抱える家族についてたどる旅の物語。

『曖昧な楽園』は2023年11月18日(土)よりポレポレ東中野ほか全国で順次公開