加藤シゲアキ最新長編小説『なれのはて』の発売記念会見が10月24日(火)に都内で行われ、加藤シゲアキが登壇した。

1万字のプロットから始まり、構成をじっくり練り上げ、原稿に向きあった期間は約3年。原稿用紙740枚超の大作となった加藤シゲアキ書き下ろし長編小説『なれのはて』。舞台は、東京、秋田、新潟。そして時代も令和から、戦前戦後の昭和、そして大正までを描く。

前作『オルタネート』が高い評価を得たことで、次作については「いろいろな可能性を模索していた」という加藤は「僕自身も新しいチャレンジに臨むべきだと思い、いつか書いてみたいと思っていた社会派なものや、一人間として30代の男性として書きたいもの、読みたいものを形にするのはどうだろう」ということから本作を書くきっかけになったという。

自身が広島生まれであることから「戦争や原爆に関して触れる機会が多く、『戦争の話を書いてくれないか』と言われることが多く、望まれるなら挑戦してみたいけど、果たして自分がそうしたものを書いていいのだろうか、書ける能力があるのだろうか」と悩みもあったというが、その中で「まだ描かれていない戦争があるのではないかと思い立ち、母やが秋田出身であることから調べたところ、たくさんの発見があり、自分が書かなくてはいけないと感じ始めました」と明かした。

さらに「物語として描くことで届くものがあるのではないか」と本作を執筆したと話す一方で「資料を読み込むうちに、史実をもとに小説を書くのは初めてでしたし、事実として起きた被害者のいるものを物語にしていいのかという葛藤がありました。一方で書くことで伝わるものがあるという葛藤を抱きつつ。なるべく史実をもとに、遺族や被害者の傷をえぐらないように、配慮しながら書く」と振り返った。

前作では「自分も想定していない注目をしていただいた」という加藤は、本作が書店員からも高い評価を得ていることで「構想から3年かかっただけあるような自信作に仕上がったと思っています。話題になっているということはチャレンジしたことが間違っていなかったんじゃないかと再確認する日々です」とよろこんだ。

「次作を期待されていたというのは実感としてありました」という加藤は「今、NEWSはツアー中なんですけど、うちわではなく『小説現代』を振っている人が何人かいて、すごい光景だなと。発売前重版のうちわもありまして、よろこんでくれていると思いました」と笑顔を見せた。

また、「難しいと思ってしまうかもしれないけれど、自分が作家として、人間・加藤シゲアキとして書かなければいけないと、見えざるものに導かれた感覚がありました」という加藤だが、自身が書く小説については「何を書きたいかと言われれば人間だと思う。人間の美しさから恐ろしさまで、そういった部分を描きたいと思っているので、だからこそ戦争が起きるんだと。一つ何かを問うのであれば、人間とは何かというのが僕の今までの小説の一貫したテーマだと思う」と語った。

さらに、周囲からの反響については「小山(慶一郎)くんは『読ませろ』と言ってくれるんですけど『買え』って(笑)一番身近な人間に買っていただきたいので、10冊買ってご家族に配ってくださいと(笑)」と笑いつつ、「祖母がプルーフを3日で読んだと。90代の方でも伝わるんだったら書いてよかったなと思いました」と明かした。

また、『オルタネート』は第164回直木賞にノミネートされたことでも話題となったが、本作については「文学賞のことはなるべく考えないようにしています。機会はあればありがたいことですけど。前回直木賞候補にしていただき、言葉に勇気づけられてこの作品に至ったことは間違いないので本当に感謝しています。一番大事なのは作品として、とにかくおもしろいものを書くという気持ちで臨んできたので、書店に並んでも恥じぬ作品になったと思います」と自信を見せた。

【写真・文/編集部】

『なれのはて』

著者名:加藤シゲアキ
発⾏:講談社
発売⽇:2023年10⽉25⽇(⽔)
判型:四六判ワイド上製
定価:2,145円(税込)