『市子』の完成披露上映会が11月6日(月)にテアトル新宿で行われ、杉咲花、若葉竜也、森永悠希、中村ゆり、戸田彬弘監督が登壇した。
本作は、監督の戸田彬弘が主宰する劇団チーズtheater旗揚げ公演作品でもあり、サンモールスタジオ選定賞2015では最優秀脚本賞を受賞した舞台「川辺市⼦のために」が原作。観客から熱い支持を受けて2度再演された⼈気の舞台を映画化。川辺市子(杉咲花)は、恋人の長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズを受けた翌日に、突然失踪。長谷川が行方を追い、これまで市子と関わりがあった人々から証言を得ていくと、彼女の底知れない人物像と、切なくも衝撃的な真実が次々と浮かび上がる…。
本作で主演を務めることで「味わったことのない経験をさせてもらった」という杉咲は「こう表現しなければという欲が剥がれ落ちて、ただ起こっていることに対して反応してしまう時間。心が揺さぶられる時間を演じていて過ごせたのは初めての体験」と撮影を振り返った。その中で演じた市子については「市子は穏やかな暮らしを求めて生きている人。求めるというのは幸福であるということを知っているからだと思って、何を幸福と感じるのかを知りたいと思った」と語った。
共演する若葉は脚本を読んで「(杉咲が)どう演じるかに興味がわいて、それを目の前で目撃できるということに心を奪われました。なのでぜひ『僕にやらせてください』ということで」と振り返った。一方で演じているときは「僕は杉咲さんに『おちょやん』でもプロポーズしたんですけど、いつもうまくいかないなと思っていました(笑)なかなか厳しいものですね」と笑いを誘った。若葉が演じる長谷川は作中では市子を追う役どころとなるが「全神経を使ってその場所に佇みました」と役への思いを振り返った。
2015年に原作の舞台を観劇したという中村は「衝撃があったので、戸田さんが映像化されるということで、“絶対にいい映画にしたい”みたいに」と思いを抱えていた様子で「素晴らしい役者さんが揃って、仕上がりを見た時に“いい映画にいなったな”という幸福感がありました」と笑顔を見せた。
原作の舞台も作り上げた戸田監督は「出来る限り舞台で感じる印象に近いものを映像にできないかと考えました」という戸田監督は「市子と関わった人たちの目線で描いて一句手法を取ったんですけど、舞台とは違う形でした」と映像化するにあたっての違いを語り、「主人公である市子を追いかける映画ではあるけど、つかみきれない、最後まで完璧に理解することの難しさを描こうとしたところもテーマでもあるので、どうすれば映像としてそういう印象を与えていけるのかを考えて」と映像化の難しさを語った。
完成した映像を見た杉咲は「市子を語る方々のシーンは自分は現場に立ち会っていなかったので、こんな風に人々の中に市子は影を残して、それぞれの市子像があったんだなと思ってハッとしました」と明かした。また、若葉は「切なすぎて笑ってしまうシーンもあるくらい。こんな悲しくておもしろいことあるのかなと思いました」と自身が受けた印象を語った。森永も「もっといい方法がとか、歯がゆい思いをしながら見ていました」と言葉を選びながら映画の印象を語った。
撮影では「クランクアップの日が突き抜ける青空だったんですけど、その中に優しく虹がかかっていて、こういうものに映画は守られていたのかなと思わざるを得ない感覚になった」と振り返った杉咲。さらに若葉は「6時間くらい(宇野祥平と)2人で喫茶店でしゃべってたんです。とうとうしゃべることなくなって脚本を取り出して、提案していった結果、『監督に話そう』となって思いを伝えに行きました」と、撮休日に話し合ったことが作品に反映されたこともあったという。
最後に杉咲は「自分にとって市子を演じた時間は、引き裂かれるような痛みがあったと同時に、自分の中の大切な記憶としてこの先も何度も再生したいような多幸感に包まれた時間でもありました。どんな環境にいたとしても、その人のことはその人にしか分からなくて」「その中でどれだけ他者と関わって生きていくことができるんだろうと突きつけられる映画です。どう受け止めるかが、何か自分たちの実生活に反映される気がしています。この話は自分には関係ないと思っている人にこそこの映画を観てもらいたいです」とメッセージを送った。
【写真・文/編集部】
『市子』は2023年12月8日(金)よりテアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテほか全国で公開
監督:戸田彬弘
出演:杉咲花、若葉竜也、森永悠希、倉悠貴、中田青渚、石川瑠華、大浦千佳、渡辺大知、宇野祥平、中村ゆり
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2023 映画「市子」製作委員会