『52ヘルツのクジラたち』の初日舞台挨拶が3月1日(金)にTOHOシネマズ六本木ヒルズで行われ、杉咲花、志尊淳、小野花梨、宮沢氷魚、桑名桃季、成島出監督が登壇した。

町田そのこによる原作「52ヘルツのクジラたち」(中央公論新社)は、2021年の本屋大賞を受賞し、75万部を売り上げる圧巻の傑作ベストセラー小説。「52ヘルツのクジラ」とは、他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラ。たくさんの仲間がいるはずなのに、何も届かない、何も届けられない。そのため、世界で一番孤独だと言われている―。杉咲花が演じるのは、自分の人生を家族に搾取されてきた女性・三島貴瑚。ある痛みを抱えて海辺の街に越してきた貴瑚は、そこで母親から「ムシ」と呼ばれる、声を発することのできない少年と出会う。愛を欲し、誰にも届かない声で泣く孤独な魂たちの出会いが生む、切なる愛の物語。メガホンをとるのは成島出監督。

「今日まで長い道のりだった」という杉咲は「骨の折れるような日々だったんですけど、それだけみんなが真剣な現場で。こんな現場に関われることが幸せなことだと思いながら撮影を紡いできたので、この日を迎えられて少しだけホッとしています」と安堵の表情を浮かべた。「命を懸けないと向き合えない作品だった」という志尊は、本作の宣伝活動を通して「どう説明したらいいんだろうというのはありまして」と悩みを打ち明け、「みんなでぶつかって、時には苦しい思いで作った作品なのでたくさんの人に見てもらえることが何よりも救い」と語った。

撮影前にはリハーサルを重ねたという本作だが宮沢は「クランクインする前に、みなさんとシーンへの向き合い方とか、感情の作り方をできたからこそ、撮影当日にスッとそのそのシーンに入り込めた」と明かした。そのリハーサルでは「ウォーミングアップとしてみんなでゲームをしたり、シーンに行くつく前の時間をエチュードで深堀する時間」と振り返り、志尊は「どこに座るんだろう」と居酒屋のシーンでは座る場所について考えることもあったという。

元々原作のファンだったという小野は「まさか自分が一員になれると思っていなかった」といい、プライベートでも仲がいいという杉咲は「友達と過ごしてきた時間のほうがはるかに長かったですし、いつか花梨と深く交わる役で共演したいという目標があったんですけど、2年以上前におすすめの本として原作を紹介もらって、原作を購入したくらいのタイミングで貴瑚役のオファーをいただき、美晴役のオファーが花梨の元にいってる。こんなめぐり合わせってあるんだなとご縁を感じました」と振り返った。

「みなさんのこの作品に対する思いとか熱量はすごいものを感じた」という宮沢は「自然と僕ももっと高みを目指さないと、もっとよくしないととモチベーションを上げていった瞬間がたくさんあった」という。「常に誰かに寄り添っている役柄だったので、花ちゃんと花梨ちゃんが悩んだり、葛藤している時もいつでも手を差し伸べられる人でありたいと思っていた」という志尊は「見つめることしかできなかったんですけど、ちゃんとコミュニケーションが取れてやれた」と撮影現場の雰囲気の良さをうかがわせた。

一方で、小野と初共演だったという志尊は「女優さんとして素晴らしい方だというのは見ていて知っていたんですけど、めちゃくちゃ僕のことイジってくるなと」と明かすと、「こんなに志尊淳の看板がある前で言う?」と会場を見渡し焦る小野に、志尊は「大丈夫だよ。『“そんじゅん”じゃないですか』って」と暴露。これに小野は「裏で“そんじゅん”って呼んでるんです。志尊さんの前では志尊さんって呼んでるんですけど、ある日間違えて『“そん”さん』って言っちゃった」と明かし、これに志尊からは「いいよ」と言われたそうで小野は「温かい方です」と笑顔を見せた。

東京と大分で撮影された本作。東京での撮影では「緊張感があった」という小野だが、大分では「みんなの顔が違う。土地に癒されているんだなと感じて。土地の持つ力をひしひしと感じて驚くものがありました」と振り返った。杉咲も「天気にも恵まれて、ご飯もすごいおいしかったので、大分での時間は癒しでした」と振り返り、「撮影が終わった後に花梨とウォーキングしたり」と明かすと、小野は「速いんです、花のウォーキング」と笑った。

イベントでは、3月5日(火)に29歳の誕生日を迎える志尊に、バースデーサプライズでクジラが乗ったケーキと花束が贈られた。ケーキに興味津々の様子の志尊は「1人で最後まで食べたいと思います(笑)どんな味がするか楽しみです」と笑顔を見せた。また、志尊は「20代最後の年になるんですけど、そのスタートがこの作品と一緒にスタートを迎えられることがうれしいです。30代を歩んでいく中で、『52ヘルツのクジラたち』は絶対に僕を後押ししてくれる作品になる」と語った。

最後に杉咲は「この映画を撮り終えて完成したことに対して清々しく、やり切ったと手放しで思ってはいません。きっと議論が起こると想像していますし、みなさまからの声を真摯に受け止めていきたいという気持ちを持っています」と話し、「ただ私はこの作品が時代の中で乗り越えられていく作品になってほしいと思っていて。将来この作品を見返した時に、まだこういう悲劇が描かれていた時代があったのかと思われてほしくて、そのためにこの作品が作られたと信じています」と語った。

また、「人の痛みをすべて分かることはできなくて。でも分からないということは無力ではないと思う。分からないからその人の事を知りたいと思えるし、優しくしようと思えると思う。共感できなくても隣にいられるし、大切なものを分け合えたりできる。だからこそ諦めないで人と関わろうとしてほしいというこの作品に込められているメッセージを大切に受け止めたいと思っています。みなさんにとってほんの一瞬でも光を感じられる作品になっていたらうれしいです」とメッセージを送った。

【写真・文/編集部】

『52ヘルツのクジラたち』は全国で公開中
監督:成島出
出演:杉咲花、志尊淳、宮沢氷魚、小野花梨、桑名桃李/余貴美子、倍賞美津子
配給:ギャガ
©2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会