『オッペンハイマー』の公開記念トークイベントが4月6日(土)に丸の内ピカデリーで行われ、映画監督の原田眞人と森達也が登壇した。

本作は、世界の運命を握ると同時に、世界を破滅する危機に直面するという矛盾を抱えた一人の男の知られざる人生を、IMAX®撮影による没入感と共に描き出す壮大な実話ドラマ。クリストファー・ノーランが監督・脚本を務め、主演のキリアン・マーフィーほかエミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr.、フローレンス・ピュー、ジョシュ・ハートネット、ケイシー・アフレック、ラミ・マレック、ケネス・ブラナーらが出演している。IMAX®撮影による、天才科学者の頭脳と心を五感で感じさせる極限の没入体験を味わえる。

本作を鑑賞し、「すごく手ごたえのある映画」という森監督は、本作で広島・長崎が描かれていないという声が上がっていることについて「映画を見て改めて思いましたが、しっかりと描いています。間接話法と直接話法があるので、直接的に描けばいいというものではない。その意味では強烈な反戦映画で、反核映画。多分クリストファー・ノーランは強い政治的イデオロギーはないと思うんですけど、オッペンハイマーを描くことで必然的にそういう映画になってしまった」と語り、「この世界にとっても大事な映画」とコメントした。

「原爆開発、被害については3部作にするべきだと思っている」という原田監督は「今回はオッペンハイマー、作った側のロスアラモス研究所を中心とした1つ。あと広島・長崎の惨状。今のVFX技術だと当時の地獄絵を再現できる。ジェームズ・キャメロンもやりたがっていますよね。もう一つはポツダム会談。日本の降伏をめぐる論議は分科会で、メインの会場で論議されているのはヨーロッパのことに対するやりとりがあって。そういうものを含めて描いたほうがいい」と自身の思いを語った。

さらに「僕自身は、広島の惨状を『日本のいちばん長い日』にワンカットしか入れられなかった」という原田監督は、コロナ禍で「一生懸命資料を読み込んで脚本を書いたんです。広島の原爆投下を中心とした1か月の話」と明かした。一方で、その脚本を映画化するにあたっては「やりたいですけど日本のお金だけではできない。30億、40億というお金がかかるので、『オッペンハイマー』が道を開いてくれた、いつかこの映画を作るぞと言う気持ちにもなりました」と意気込みを語った。

本作について“映画そのものである”と表現した森監督は「映像と音、いろんなものが混然一体となっているのが映画。その定義からしたら圧倒的、質量が圧倒的に大きくて」と語り、「テレビは足し算。でも映画は過剰に説明する必要がない。間接話法でいい。そのほうが深く届きます。ノーランは(本作で)オッペンハイマーの苦悩、広島・長崎の惨状、被爆国の辛さを間接話法でしっかりと描く」と語った。

主演を務めたキリアン・マーフィーについては「あの繊細なキリアンで大丈夫なのかと不安になった」という原田監督だが「『ピーキー・ブラインダーズ』を見始めたら素晴らしい。繊細ながら力強さがある。『オッペンハイマー』も音と映像で、オッペンハイマーの心の奥深くに入っていく。それが彼の表情で見せてくれる。その中から弱さが出てくる。一人の人間としてフルスケールの部分が素晴らしい」と語った。

また、鑑賞した人からはさまざまなコメントが寄せられているが、“キャスト陣の鬼気迫る演技”というコメントについて原田監督は「スターが出ているから当然だと思っているんですけど。どこを切り取っても役者たちがみんな入れ込んでやってる。映画の醍醐味抑えている。クリストファー・ノーランは本当にそういうところがうまい」と絶賛した。

さらに原田監督は「この映画を受けて、僕は日本映画人として、広島を描くことで核の惨状を(描きたい)。今のVFX技術で再現できる。そこでどう生きたかというドキュメントは残っている。こういうものを作ることによって、プーチンや金正恩などに見せてしっかりとこの惨状を瞼に刻んでもらいたい。警告の意味でも『オッペンハイマー』が開いてくれた道を、広島の映画であり、ポツダムの映画であるとか、世界の映画人がここから影響を受けた映画を作っていくべきだと思います」と語った。

【写真・文/編集部】

『オッペンハイマー』は全国で公開中
監督・脚本:クリストファー・ノーラン
出演:キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr.、フローレンス・ピュー、ジョシュ・ハートネット、ケイシー・アフレック、ラミ・マレック、ケネス・ブラナー
配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画 
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