第37回東京国際映画祭の特別上映『クリスマスはすぐそこに』トークショーが11月4日(月)にTOHOシネマズ シャンテで行われ、アルフォンソ・キュアロン(原案/エグゼクティブ・プロデューサー)が登壇した。
10月28日(月)~11月6日(水)に日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催される第37回東京国際映画祭。本作『クリスマスはすぐそこに』は、『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』『グリーン・ナイト』のデヴィッド・ロウリー監督による短編アニメ。ひょんなことからクリスマスツリーとともにロックフェラープラザに運ばれてしまった好奇心旺盛な子供のフクロウ、ムーン。騒動に巻き込まれたムーンは迷子の少女ルナと出会う。家族の元に帰るため冒険に乗り出したふたりの間には、クリスマスの魔法によって思いがけない絆が生まれる。原案とエグゼクティブ・プロデューサーをアルフォンソ・キュアロンが務める。11月15日(金)からディズニープラスで独占配信。
今回、TIFFシリーズ部門で11月5日(火)に上映されるApple TV+『ディスクレーマー 夏の沈黙』のために、アルフォンソ・キュアロン監督が来日。キュアロン監督が原案とエグゼクティブ・プロデューサーを務める短編アニメ『クリスマスはすぐそこに』の上映会とトークショーが行われた。
上映前にキュアロン監督は「この作品を今日皆さんにお披露目することを楽しみにしておりました」と挨拶をし「東京国際映画祭が皆さんにご覧いただく機会を提供してくれたことを嬉しく思い、この作品を誇らしく感じています」と急遽決まったという本作の上映に喜びをみせた。また、作品については「私が手掛けている短編シリーズの一編で、ディズニーと共に世界中の様々な年末の祝い事が各地でどんなことがあるのか、辛い苦しいこともあったその年の先には希望を見せたいという作品です」と11月15日よりディズニープラスで配信予定の本作への想いを語った。
本作は東京国際映画祭のセレクションが終わった後に監督自ら日本の観客に上映してほしいとのメールがあったことから急遽上映が決定したという。そんな本作についてキュアロン監督は「世界各地の年末のお祝い事をシリーズで短編で作るという企画なのですが、はっきり言って自分勝手な要望で組みたい監督を起用しているという次第です」と企画の経緯を語った。そして本作のストーリーに関して「ロックフェラー・センターで実際にあった話に着想を得ており、脚本のジャック・ソーンが台本を書き、監督に仕上げてもらった」と製作の過程を明かした。
本作で初めてアニメーションを手掛けたというデヴィッド・ロウリー監督については「最初はストップモーションでという話もあったのですが、時間や技術的なことで不可能となり3Dアニメーションになりました。ダンボールを足したり手作り感がある手法になっています」と話し、アニメーションを選んだ理由として「話している中でアニメーションを撮ろうということになりました。私は実写映画を短編で撮ることになっていましたがディズニーに打診したところ快諾してくれました」と明かした。また、アーティスティックなアニメーションとなっている本作のスタイルについては「ロウリー監督が10代の頃にダンボールでセットを組み立ててストップモーションを撮っていたのでその手法を実現したいとのことでした」とロウリー監督の提案の元、撮影したという。
また本作では「ブギーナイツ」(97)、ミュージカル映画「シカゴ」(02)で見事な歌唱力も披露し、同助演男優賞にノミネートされたジョン・C・ライリーがナレーション兼ストリートミュージシャン役として登場するが「これもロウリー監督がストリートミュージシャン役としてジョン・C・ライリーにアプローチして(ライリーが)実際に楽曲を手掛けました」とキャスティングへの経緯を話した。
キュアロンが監督を務め、ケイト・ブランシェット、ケヴィン・クライン主演でドラマ化されたシリーズ全7話『ディスクレーマー 夏の沈黙』の企画の発端については「原作者が出版前に私に構想を聞かせてくれてそれで映画が浮かんだが既存の映画という手法ではないなと思い、でもシリーズものなら可能ではないかと考えました」と映画ではなくシリーズとして製作した経緯について明かすと、東京国際映画祭での上映の喜びをみせ「映画館で観るチャンスがない方はAppleTVで観てください」と呼びかけた。ヴェネチア映画祭で大絶賛された本シリーズはApple TV+で既に配信されている。
本映画祭でカザフスタンのアディルハン・イェルジャノフ監督の『士官候補生』を観たと話し「フィンランドのミッドナイト・サン・フィルム・フェスティバルで直接お会いして、(作品を)観てすぐに友達のフィルムメーカーと共有しました。より多くの方に観て発見してもらいたい監督です」と紹介し「非常にレアな作品だと思います。一見ホラーなようですが、非常に明晰で自国に対する普遍的な懸念や監督の憂いというものが反映されているが、説教くさい映画ではない」とアディルハン・イェルジャノフ監督作品の魅力を語った。
世界の映画監督で注目している人を聞かれるとフィンランドのユホ・クオスマネン監督作品の『コンパートメントNo.6』(2021年)を挙げると「古典の巨匠の作品も観ることも大事ですが次世代の巨匠となっていく人の作品に触れていないとあっという間に年をとってしまいます」と新世代の監督たちの作品を観ることの重要性を語り、さらにインドのチャイタニヤ・タームハネー監督作品『裁き』(2014年)を「非常に気に入って応援しています」とも話した。
また、日本映画について「趣味としては70年代のヤクザ映画も面白いですよね」と本映画祭のプログラミング・ディレクター市山尚三と話していたと明かし、溝口健二監督、小津安二郎監督、黒澤明監督の名前を挙げると「巨匠の作品は観るたびに学びがあるので息子にも黒澤明監督作品を観るように勧めているところです」と脚本や監督をしている息子ホナス・キュアロンにも勧めていることを明かした。さらに、最近観た日本映画については「是枝監督の新作は観るようにしています」と話し、三池崇史監督の『藁の楯』について「彼(三池監督)の他の作品と異なり、フリッツ・ラング監督の『M』(1931年)に似ているコンセプトかと思いました」ともう一度観たいと絶賛した。
最後にキュアロン監督は新作については「ないです」と明かし「ディスクレイマーが長い時間をかけたので一般的な90分以内の作品を撮りたいと考えています」と次回作への意気込みをみせた。
【写真・文/片岡由布子】
第37回東京国際映画祭は2024年10月28日(月)~11月6日(水)に日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区にて開催