パリ・オペラ座のバレエ学校でエトワールを目指す少女ネネの物語『ネネ -エトワールに憧れて-』の舞台となるパリ・オペラ座における多様性の広がりとは?
ヒップホップが溢れる街で育ったネネは、パリのオペラ座バレエ学校に入学したばかりの12歳の黒人少女。ネネの才能は誰の目にも明らかだったが、彼女の生い立ちや肌の色が伝統ある学校にはそぐわないと同級生や一部の教師から差別を受けていた。それでも持ち前の情熱とひたむきさで、エトワールを目指し日々バレエに打ち込むのだが、彼女の入学に最初から反対していたマリアンヌ校長との衝突などトラブルが次々と起こっていく。そんな最中、マリアンヌの隠された秘密が明らかになる。
フランス映画界の新星ラムジ・ベン・スリマンが監督・脚本を務め、若きバレリーナである主人公のネネ役をオウミ・ブルーニ・ギャレルがエネルギッシュなダンスで見事に演じ、元スターバレリーナから校長に転身しネネに立ちはだかる校長マリアンヌ役を名優マイウェンが、オペラ座の演出家役をセドリック・カーンが熱演する。さらに、ストリートダンス振付にコンテンポラリーダンスの新星メディ・ケルクーシュ、クラシックダンスアドバイザーにパリ・オペラ座の現役ダンサー、ジュリアン・メザンディが加わり、スター・ダンサーであるエトワールのレオノール・ボラックが本人役で躍るという本格的バレエシーンも見どころ。バレエの美しさと厳しさを描くのと同時に、人種差別や才能への僻み妬みで苦しみながらも常に前向きに生きるネネの姿を通して、その周りの人々も成長していく感動作に仕上がっている。
パリ・オペラ座バレエ学校は、300年以上の歴史と格式を誇る世界で最も古いバレエ学校。世界最高峰のバレエ団の一つ、パリ・オペラ座バレエ団の団員の95%は、この学校出身者で構成されており、毎年数百名の応募者の中から20人程度のみが入学できるという狭き門。現在のパリ・オペラ座およびバレエ学校では、この映画で描かれているような指導者による人種差別的な言動は許されていない。しかし、古典バレエの殿堂であるこの劇場で意識改革が始まるまでには長い道のりがあった。2020年夏、パリ・オペラ座の黒人団員5人が、「今まで無視されてきた人種問題を明るみに出したい」と変革を求める公開書簡をパリ・オペラ座の従業員宛に発表した。この書簡に応えるかたちで、カナダ出身の新総裁アレクサンダー・ネーフ主導により、パリ・オペラ座におけるダイバーシティ推進についてのレポートが公開された。内容はすでに常識だと感じられるものばかりで、革新的な取り組みとは言えないものだった。
さらに、ル・モンド紙によると、1,500人のパリ・オペラ座の従業員のうちマニフェストに署名したのは300人に満たなかったそうで、そのことからもパリ・オペラ座で多様性が受け入れられるまでの道のりの長さがうかがえる。一方で、多様化への明るい兆しも見えてきた。2023年3月に、ギョーム・ディオップがパリ・オペラ座バレエ団の歴史上初めて黒人のエトワールに任命されたのである。ディオップは公開書簡を提出した5人のダンサーの一人であり、「僕が踊りを始めた時に、僕のような人がすでにいたら、ずっとやりやすかったでしょう。また、僕の両親にとっても楽だったと思います。僕は、僕のような人を代表できることが幸せだし誇りに思っています。そのことで、子どもたちがダンスの道に進むことができる助けになるからです」と自身が担うべき役割に努めている。
本作でネネが挑む世界はまだまだ多様性に対して寛容ではなく、「バレエは白人のもの」とネネを邪険に扱うマリアンヌ校長や、同級生の嫌がらせに苦悩する日々を送る。それでもバレエに魅せられた少女は踊らずにはいられない。そんなネネの姿はギョーム・ディオップの偉業とともに多くの人に勇気を与えるに違いない。『ネネ-エトワールに憧れて-』は11月8日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国公開。
『ネネ -エトワールに憧れて-』は2024年11月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開
監督・脚本:ラムジ・ベン・スリマン
出演::オウミ・ブルーニ・ギャレル、マイウェン、アイサ・マイガ、スティーヴ・ティアンチュー、セドリック・カーン、レオノール・ポラック
配給:イオンエンターテイメント
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