CS放送「TBSチャンネル1 最新ドラマ・音楽・映画」で放送中の音楽番組『Spicy Sessions』(スパイシーセッションズ)の、11月・12月放送回の収録レポートが到着した。

刺激的な音楽番組『Spicy Sessions』(スパイシーセッションズ)は、音楽が生み出される瞬間を魅せるドキュメンタリー番組。今月行われた11月、12月放送回の収録を、ゴスペラーズをデビュー当時からよく知り、数々のアーティストのオフィシャルライターを務める音楽ライター・伊藤亜希が取材。収録後のMCインタビューと合わせて番組の魅力を伝える。

MCを黒沢薫(ゴスペラーズ)と、中西アルノ(乃木坂46)が務め、CS放送TBSチャンネル1で放送されている本番組は、11月の収録でちょうど12回、来月には放送開始から1年を迎える。毎回ゲストとともに、多彩なジャンルのセッションを繰り広げてきた『Spicy Sessions』。観覧を終えた観客が帰路に就く際には、こんな会話が飛び交っている。これまでの収録の中で拾った言葉の中から一部を紹介しよう。「中西アルノがあんなにすぐハモれるのには驚いた」「黒沢 薫の仕切りがないと成立しない番組」「がっつりルーツを掘り下げたトークが面白かった」「ゲストやバンドと一緒に並んでカレー食べてるって(笑)」「カバー曲のセレクト、他の歌番組じゃあり得ない」「バンドも楽しそうだった」……など、挙げ始めたらきりがない。そんな中でも、目立って多かったのは「セッションってああいう感じなんだ」「本物のセッションすごかった」という感想だ。セッションを体感できる、そこが『Spicy Sessions』の最大の魅力だ。

11月放送のゲストは、Little Glee Monsterのかれんとmiyou。最初に自身の楽曲「Come Alive」を2人だけのスペシャルバージョンで披露。「二声(2人)とは思えないような倍音がありましたね」という黒沢の言葉に観客から同意の拍手が起こる。Little Glee Monsterとは、彼女たちのデビュー前から親交があるゴスペラーズ。黒沢は「ヴォーカルグループがほとんどいないメジャーシーン。そういう意味では、Little Glee Monsterが唯一の後輩なんですよ」と、音楽シーンを俯瞰で捉えた言葉で改めてリトグリを紹介した。この黒沢の俯瞰の視点は『Spicy Sessions』という音楽番組にとって、非常に重要なファクターだ。その視点はセッション曲のセレクトにも現れていると思う。

セッションという“マニアックなスタイル”を誰もが楽しめるエンターテインメントに昇華させているのは、黒沢薫の俯瞰の視点と、中西アルノというキャッチーさと実力を備えたアイコンの存在があってこそだ。かれんと中西のセッション曲は三浦大知の「ふれあうだけで ~Always with you~」。かれんが、キーを原曲より“+3”にしたいとリクエスト。バンドが音を鳴らしてキーを確認していく。黒沢は、かれんと中西と相談し、歌割りを決めながら「リトグリに乃木坂がハモるなんて(他の番組じゃ)ないでしょ?」と観客へ言葉を投げると、観客から大きな拍手が。黒沢が中西に細かくリクエストする様子にかれんが「名物(=無茶ぶり)だ」とつぶやくと、場内は笑いに包まれた。

歌唱が始まると、お互いの声を確かめ合うように、そしてお互いがお互いを引っ張り合うように高まっていく歌声に、観客は聴き入っていた。続いては、黒沢が「この番組以外では歌えないと思う」と言ったダニエル・シーザー&H.E.R.の「Best Part」をmiyouと黒沢でセッション。2人の歌唱をステージ上で観ていた中西は「黒沢さんはハイトーンのイメージがあったんですけど、ローの歌声も素敵で。ずっと聴いていたいと思いました」と、楽曲の良さまで受け取ったコメントを述べる。

続いて、かれん、miyou、黒沢でLittle Glee Monsterの「ECHO」。スタジアムロックを想起させるダイナミックな曲調とスケール感、そしてを繰り返す力強いメロディーが特徴のミドルチューンだ。黒沢は「スタジアム級の曲をこの空間でやってみたかった」と選んだ理由を述べた後「お客さんも歌いません?」と観客に目を向けた。この投げかけにレスポンスし、冒頭のから右手を頭上に掲げ大合唱する観客。その光景は本当にライブそのものだった。中西アルノのソロ歌唱曲はaikoの「カブトムシ」。中西いわく「新しい一面を出させてもらえたら」という思いで選んだ曲だそうだ。中西の歌声にひっぱられるように、バンドが丁寧にグルーヴを調整していく。ファルセットや高音のロングトーンをクリアに響かせ、原曲とはまた違った切なさを醸し出していた。

12月放送のゲストで登場したのはTani Yuuki。拍手とともにステージに迎えられたTaniは「素敵な機会をありがとうございます」と挨拶。最初にTaniのオリジナル曲「おかえり」を歌い、最後はアカペラで高音のロングトーンを響かせた。「音源よりもめちゃくちゃダイナミックだった」と黒沢。中西も「アコギがアコギじゃないくらいでした」と興奮気味。セッション自体が初体験というTaniがセッションの候補曲として挙げたのは、DEENの「このまま君だけを奪い去りたい」。Taniと黒沢でセッションすることに。譜面が準備され、黒沢は、Taniに確認しながら歌割りを決めていく。「サビはTaniくんに歌ってもらって。(僕が)引き立つようなハモりを」と言う黒沢の言葉に「マジですか?いいんですか?」とTaniがワクワクした表情を見せる。

1度バンドと合わせるため、サビだけ練習することに。高音のさらに上でハモるアプローチを見せた黒沢に、Taniから「気持ちいいー!」と本音が漏れた。本番へ。イントロが始まると、笑いながら後ろを振り返り、バンドメンバーを見回す黒沢。その視線にバンドメンバーたちが“こうでしょ?”とアイコンタクトを返す。バンドサウンドは『Spicy Sessions』のひとつの肝である。各メンバーが多彩なジャンルを網羅しているからこそ、曲のアレンジはもちろん、黒沢のリクエストにフレキシブルに対応できる。さらには、曲の良さを活かす緩急やグルーヴを全員が瞬時に理解し、再現できる。音楽への情熱とスキルを備えたメンバーばかりだ。「このまま君だけを奪い去りたい」は、少し重ための引きずるような独特なグルーヴがある曲だが、そこをイントロから見事に合わせてきたバンドサウンドに、黒沢は破顔するほど嬉しかったのだろう。ミュージシャンとミュージシャンが音で会話をしている、その表情が目の前で観られるのも『Spicy Sessions』が回を重ねることで得た魅力だ。

続いて、RADWINPS「愛にできることはまだあるかい」をTani、黒沢、中西でセッションすることに。歌詞に合わせて歌割りを決めるなど、これまでになかったパターンも出て来ていた。歌う前に黒沢は、中西に「間奏のシャウト、「Actually...」(乃木坂46)みたいなシャウトで」とリクエスト。先述した歌詞に合わせた歌割りも含め、中西がオクターブ上をファルセットでハモるなど、新たなチャレンジが詰め込まれた1曲となった。Taniが中西に向かい「間奏のかけあい、気持ち良かったです」と言った本曲の仕上がりぶりは、是非とも放送でチェックしていただきたい。

黒沢がTaniと一緒に歌いたいと選んだのはTaniの代表曲「W/X/Y」。黒沢が、初めて同曲を聴いた時の感想を話すと「すごく嬉しいです」とTani。「W/X/Y」が始まり、驚いたのは黒沢のボーカルアプローチである。黒沢の代名詞でもある“声を張ったハイトーン”を持ってきた。なぜ、「W/X/Y」で初めて自分の代名詞をぶつけたのか。それは、楽曲とTaniのボーカルに、それだけエネルギーがあったからだと思う。エネルギーにエネルギーで応え、Taniへのリスペクトを歌で表現したのだ。ゴスペラーズとして歌う時よりも、クリアで丸みのあるハイトーンが、Taniの柔らかい歌声にとてもマッチしていた。「セッションっていいですね。ライブではやっていないアレンジもあって楽しかった」とTaniが感想を述べる。最後には「また一緒に」という言葉が出るほどセッションを楽しんでいた。中西が自身のソロ歌唱曲に選んだのは家入レオの「Silly」。「ストーリー性のある曲だから感情に身を任せて歌いました」と語った中西。感情の緩急をしっかり歌に刻んだ中西の表現力にも注目してもらいたい。

MCインタビュー

――黒沢さんが、ダニエル・シーザー&H.E.R.の「Best Part」を紹介する際、これまでの中で「最もセッションらしい1曲」と仰っていたんですよ。12回収録を重ねて来た今、改めて“セッション”の楽しさを伺えますか?
黒沢 この番組でよく登場する“無茶ぶり”っていうのは、セッションとしては、じつはユニークなスタイルなんですよ。なんとなく決めて、それで始まるのがセッションですから。だから例えば「Best Part」みたいに、あんまりコード進行の展開がなくて、メロディーががっちり決まってない曲の方が、セッションはしやすい。

――メロディーががっつり決まってない分、自由度が高いってことでしょうか?
黒沢 もちろん、それもありますね。これまで『Spicy Sessions』でやってきたJ-POP、今回の収録ではJ-ROCKもセッションしたけど、両方ともメロディーがしっかりある。だから、それだけで縛りが強いんです。縛りが強い上に、普通にやると、ただツラッと歌えて「良かったですね」になりがちなんですね。そうならないようにやっているのが『Spicy Sessions』って番組なので。だから本来のセッションよりも、この番組のセッションはハードルが高い。それをバンドもゲストも含めて全員で完成させていく。そこをしっかり見せていきたいと思っているんですよね。聴いた方が“セッションするんだ、うまいじゃん”って思うだけじゃなく、そこを越えていくものを考えたいし、考えないといけない。だから僕の中ではプロデュースワークに近いところもあるかな。将来的にはアルノさんが「私ここ歌います!」って言ってくれるといいなぁ、と。
中西 えっ!(笑)。

――来ましたね、ハードルあげ。
中西 はい(笑)。でも収録を重ねていく中でわかったのは(黒沢さんにいろいろリクエストされて)“どうしよう……”って思っても、やらなきゃいけないわけで。だったら、考えるよりも走り出しちゃった方が早いし、“いっちゃえ!”って飛び出したものが良かったりすることが、セッションではすごく多かった。とりあえず飛び出してみるかって、そういう気持ちが持てるようになったのは、自分の中でも大きいですね。
黒沢 そう。どうにでもなる。それがセッションだから。
中西 そうですよね!

――リテイク(再度演奏すること)も放送するのが『Spicy Sessions』ですが、今日はいつもよりも、リテイクする曲が多かったですね。でも、テイクを重ねる度に、前のテイクとはまったく違う音像になっていって。正直、ちょっと、びびりました。
黒沢 そうなんですよ、あれがセッションなんです。テイクを重ねても同じ演奏、同じ歌ではない。少しずつフレーズが変わったり、ニュアンスが変わったりするんです。今回の収録は2本ともリテイクがあったから、すごく分かりやすかったかもしれないですね。

――ではアルノさんに伺います。セッションした「愛にできることはまだあるかい」、ソロで歌った「Silly」。両曲とも静と動のコントラストがある、ストーリー性のある曲だと思うのですが、アルノさんの中での表現の違いは?
中西 「Silly」の方は自分の感情が高ぶって、その波に乗っかっていった感じで。「愛にできることはまだあるかい」は、バンドに乗っかっている感覚。ピアノもギターもすごく盛り上がっているところに、自然に私が声で乗っかっていくような感覚で歌っていましたね。
黒沢 そうだよね。「Silly」は自分自身が引っ張っていた。
中西 そうですね。
黒沢 「愛にできることはまだあるかい」は、ボーカルが3人いてのセッションだから。バンドの音も含めて、3人がお互い反応し合っていくっていう感じだったよね。
中西 そうです!まさに!

――今のやりとりで、2人の感覚がばっちり合っているのが分かりましたね。
黒沢 そうだね。今、アルノさんの言葉にすごく納得できました。

――1周年を迎える『Spicy Sessions』。今後の抱負を教えてください。
黒沢 今回のTani Yuukiくんみたいに、僕も初めまして……ってゲストにも声をかけていきたいなと思っています。(自分と)仲がいいアーティストとのセッションも、やってる中で新しい発見がありますし、初めて会うアーティストと音楽を通して会話をして仲良くなっていく……この両方とも素晴らしいことだと思うんです。音楽を通して分かり合える瞬間を見せていくことも『Spicy Sessions』には絶対に必要だと思いますから。だから今後は(自分の)人脈と初対面、その両方でやっていけたらベストかなと思っています。

番組情報

放送日時:
『Spicy Sessions with かれん&miyou(Little Glee Monster)』
2024年11月30日(土)23時30分~深夜0時30分
『Spicy Sessions with Tani Yuuki』
2024年12月28日(土)23時30分~深夜0時30分

放送チャンネル:
CS放送TBSチャンネル1