『ANORA アノーラ』のショーン・ベイカー監督 来日記念舞台挨拶が3月8日(土)にTOHOシネマズ六本木ヒルズで行われ、ショーン・ベイカー監督、サマンサ・クァン プロデューサー、サプライズゲストとして梶芽衣子が登壇した。
本作『ANORA アノーラ』は、ニューヨークを舞台に身分違いの恋という古典的な題材を21世紀風にリアルに映し出した、アンチ・シンデレラストーリー。幾度となくアメリカ社会の「声なき声」をすくいあげ評価されてきたショーン・ベイカーが、自らの幸せを勝ち取ろうと全力で奮闘するロシア系アメリカ人の若きストリップダンサー、アノーラの等身大の生きざまを丁寧かつユーモラスに描写し、清濁合わせ呑む人間らしさに溢れている。主役のアノーラには、本作が映画初主演となる新星マイキー・マディソン。アノーラに夢中になるお調子者のロシア新興財閥の息子イヴァンを「ロシアのティモシー・シャラメ」が愛称のマーク・エイデルシュテインが演じている。セックス、美、富というパワーゲームの中で利用されながらも、自らの幸せを求め続ける人間たちへの賛歌を、ユーモアを交えながら真摯な眼差しで描きだした快作だ。階級意識や偏見に抗うアノーラの圧倒的パワーとエネルギーが、凝り固まった今の世の中を鮮やかに蹴り飛ばす!約束されたハッピーエンドなんて存在しない。物語は自分で作るしかない。ちょっとビターで最高に刺激的な予想を超える結末にぜひ期待して欲しい。逆境に立ち向かう強気でセクシーなアノーラに、きっと誰もが勇気づけられ、元気をもらえるはず―。
『タンジェリン』、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』に続き7年ぶり3度目のプロモーション来日がとなるショーン・ベイカー監督。先日行われた第97回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞、編集賞の最多5部門を受賞、またショーン監督は本作で作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞と史上初めて4つの賞を受賞したオスカー受賞者となった。今回の舞台挨拶には、本作のプロデューサーで私生活のパートナーでもあるサマンサ・クァンとともに登壇した。
監督賞のオスカー像を手に登場したショーン監督は「日本に来られること、みなさんとご一緒できることは特別なことだと思っています。オスカー受賞直後の来日ということで、オスカーを受賞できたことを日本でお祝いしている感覚です」と喜んだ。「こんにちは、東京」と日本語で挨拶したサマンサプロデューサーは「お招きいただいて光栄です。『ANORA アノーラ』を日本で公開できることを嬉しく思っています」と日本公開を喜んだ。
ショーン監督は、手にしたオスカー像を眺めながら「外で見つけて拾ってきたものです(笑)」と冗談を交えつつ、「本当は全部持ってきたかったんですけど結構重いんです」と笑いを誘った。
半年前に家族旅行で日本に来たという主演のマイキーについて「2週間過ごされたみたいで、『すごく楽しかった』と言っていました」と話すショーン監督は「こういうベジタリアンのお店があるよ、こういうポスター店があるから行ったほうがいいよ、こんなバーに行くといいよといろんなお店をお勧めされました」と明かした。そんなマイキーとは、登壇直前まで連絡を取り合っていたというサマンサプロデューサーは「『日本のみなさんを愛しているとお伝えください』と言われた」とやり取りを明かした。
今回3度目のプロモーション来日となるショーン監督は「長いこと日本のみなさんから応援いただいているので僕にとって意味の深いことです」と感謝を伝え、「僕は日本の映画の大ファンで、作品作りにも大いに影響を受けているので、日本でオスカーの受賞を祝福できることがうれしい」と語った。また、サマンサプロデューサーは「非常に美しい国です。優しく接してくださり、職もおいしい。映画の趣味もいい」と日本の印象を語った。
本作について「この作品はおとぎ話のようなところがあって、叶えたい夢がある人はアノーラのキャラクターに共感すると思う」と話すショーン監督は「素晴らしいキャストがそろった。それぞれがユニークなキャラクターを演じているので、一緒に過ごしてみたいと思える人物像を作り出している」とか当たった。
そんなキャスティングについては監督とプロデューサーで行っているといい「第一に考えるのはこの役にふさわしいのは誰か、そしてスクリーン上で姿を見たいのは誰かという視点でキャスティングしています。この人を配役すれば興行成績は上がるということは考えていません」と明かし、マイキーについては「(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』『スクリーム』の)2作品のマイキーの姿を見て、なんでまだ主演をしていないのか不思議と言っていた」と振り返った。まあた、「今までに撮ってきた作品はアンサンブルキャストでキャスティングしている」というショーン監督は「一人だけ弱いということがあってはいけない。キャスティングでもクレジットされているんですけど、これが一番誇りに思っています」とキャストへの感謝とともに、キャスティングにも自信を見せた。
本作で主演を務めるマイキー・マディソンは、梶芽衣子の代表作のひとつである『女囚701号/さそり』(1972)を“役作りの参考に”とベイカー監督から渡されたという。今回の舞台挨拶には、その梶芽衣子が、アカデミー賞受賞のお祝いにサプライズで駆けつけた。
ショーン監督とサマンサプロデューサーに花束を贈った梶は「本当にすてきな映画でした。私にみたいなアナログ人間には驚きでした。最後は感動です、素晴らしかった」と絶賛した。花束を受け取ったショーン監督は「大ファンです。僕らもアナログ世代の人間です。フィルムで撮っていますし、梶さんが出演されたあの時代の映画の大ファンです」と笑顔があふれていた。
さらに「こんな素敵な監督が私のファンでいてくださることが光栄です」と話す梶は「私が映画デビューしたのが昭和40年。初めての撮影の日、それが今から60年前の3月8日なんです。今回お話をいただいて、私60周年なので鳥肌が立ちました」と明かし、ショーン監督は「一緒にお互いの記念日をお祝いできてこちらこそありがとうございます」と語った。
梶が出演した『女囚701号/さそり』について、ショーン監督は「マイキー・マディソンさんに役作りをしていただく際にだいぶ早い段階で見ていただきました」と話すショーン監督は「この映画の中の梶さんの姿がとても力強くて、体を張った演技が堂々としていて力強くて見ていただきたかった」と明かし、「だいぶ違う作品ではあるんですけど確実にDNAは受け継がれています。マイキー・マディソンさんは、スクリーンの上の梶さんの姿を見て、自分の中に取り込んだようなので受け継いでいると思います」と語った。その言葉を受けて梶は「私が参考になったとは思いませんけど」と恐縮しつつ「アノーラは最高でした。あの体当たりな演技は見ていて気持ちがよかった。清々しさが残りました」と絶賛した。
【写真・文/編集部】
『ANORA アノーラ』は全国で公開中
監督・脚本・編集:ショーン・ベイカー
出演:マイキー・マディソン、マーク・エイデルシュテイン、ユーリー・ボリソフ、カレン・カラグリアン、ヴァチェ・トヴマシアン
配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画
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