ぼくらの家路

レビュー

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小さな少年の大きな決断とは・・・

ドイツ・ベルリンを舞台に、10歳の少年ジャックと6歳の弟マヌエルが母を探して彷徨う3日間を描く物語。若い母親は不在がちで、家事や弟の世話はジャックが任されている・・・というよりも自発的に行っている。ある出来事がきっかけで、ジャックは養護施設に預けられるが、そこでも文句を言うこともなく、過酷な生活を耐え続けている。やっと家に帰れる夏休みなのに、帰る先にいるはずの母親はいない。そこで他に預けられていた弟を連れて、母親を探す旅に出る。

わずか10歳のジャックだが、その行動は人に言われたからやるのではなく、ほとんどが自らの意思で行う。それがジャックを大人にしていく大きな理由の一つだろう。物語の初めから既に彼は大人に一歩足を踏み込んでいる。幼い頃から何でも自分でやるのが当たり前になっていたからだと思う。弟の世話だって、嫌がったりもせずに自ら率先して行う。まるでこれは自分の責務だと言わんばかりに。それでいて、行方不明の母親をひたすらに探し続ける彼の姿はとても健気で愛らしい。これほどまでに無責任に見える母親に対して、ジャックは恨みなどは一切ない。それは母親が常に愛情を与え続けてきたからだろう。母親はジャックに興味がないわけでも、ましてや嫌いなわけでもない。ただ彼女自身が”まだ若く未熟な”だけで、ジャックはそれをよく理解し、だからこそ自分がやるべきだと感じているのかもしれない。次から次へとやってくる難問を一つずつ自らの力で解決していくことによって、ジャックはさらに大人への道を歩んでいる。

本作では常に子ども、特にジャックの目線で描かれている。母親を含め、登場する"大人たち"はまるで通りすがりの人物かのように説明されることもなく、深追いすることもなく、あっさりといなくなっている。それが、唯一と言っていい求められる対象である大人の母親が目立っている理由だろう。それほどまでに結び付けられている親子の関係というものを、改めて考えさせられる作品だ。3日間の旅でもはや大人と言っていいほどに成長した、最後にジャックが下す決断は衝撃的だ。

(text:編集部)

『ぼくらの家路』
(原題:Jack)
2015年9月19日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開!
/2015年/103分
監督:エドワード・ベルガー
出演:イヴォ・ピーチュカー、ゲオルグ・アームズ、ルイーズ・ヘイヤー、ネル・ミュラー=ストフェン、ヴィンセント・レデツキ、ヤコブ・マッチェンツ

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