本作が長編2作目となるマックス・ナルダリ監督と、出演するロベルト・カッルッバによる単独インタビューを行なった。本作は今年春に完成し、本国イタリアでも未公開の作品で、本映画祭での上映がワールドプレミアとなった。
監督 映画祭には、この映画が仕上がったばかりで出品しました。日本が好きだったというのもあるのですが「アジアのどこかでこの映画のプレミアしたいな」という気持ちがありました。スタートするならイタリアから遠ければ遠いほどいいんじゃないかと思いました。この映画祭のことを調べたら国際的でおもしろそうだし、ワールドプレミアにもってこいだなと思いました。そして選ばれてよかったです。
―映画と同じように、日本でも難しい問題を抱えている家族はあります。
監督 日本でも離婚問題が切実だと聞きました。2008年に本作のベースになる短編映画『The Best Gift』を撮りました。子どもが親を離婚させたいというモチーフは同じです。プレゼントをダブルでもらいたいというのも同じです。今回、長編で撮るにあたり、題材をより深く掘り下げたいと思いました。子供だけではなくて親の問題でもあるわけです。本作で主人公の子供(マルティーノ)は、富裕層が行く学校に行ってます。マルティーノはとてもいい子で賢い子ですが、こういう学校にいきなり入れられると困惑しちゃいますよね。みんなが(マルティーノが持っていない)スマホやタブレットなどを持っています。短編映画を撮った時から本作までの間に社会やデジタル事情が変わりましたので、変わった部分が大きいです。
ロベルト マルティーノの家族は、とても素敵な家族ですよね。ただ、マルティーノがこういうことを仕掛けなければそのまま続いたかもしれないけれども、あえて口にしないで見過ごしているだけで、一見平和に見えたとしても、本当は口論したほうがいいこともあります。
監督 マルティーノはパンドラの箱を開けたわけで、これがあったおかげで家族として、夫婦としても成長できたんじゃないかなと思います。変化が必要でしたよね。ブロードウェイからやって来たおばあちゃんが「退屈な家族ね」と言っていましたね。でも、娘が急に出かけたり洋服が変わると、それはそれで心配になる。それでも、この家族には変化が必要なんだなと気づかされますね。
―家族の根底に愛があるというのは表現されていますよね。
監督 愛があるかないかは大事です。愛がなければ、マルティーノがあんなにがんばらなくても家族は崩れていたと思います。父親と母親の関係、母親の生き方や父親の強くなりたいという気持ち。母とおばあちゃんという関係もある。脚本はファウスト(・ペトロンツィオ)と私の共作ですが、マルティーノが両親を離婚させたいということだけだと一行で終わる。それをどう深く描くかということです。彼だけの話ではなくて、周りをきちんと書きたかったのです。
―離婚した家庭でプレゼント合戦が起きるのはイタリアではよくあることですか?
監督 これは母の経験ですが、こういった問題を70年代から扱ってきて、以前よりさらにプレゼントがだぶらないようにすることが増えた。映画ではコメディタッチしていますが、実際に問題としてあるわけです。富裕層だけではありません。法律が関係してきますが、親権のために親の愛情合戦があるのです。
ロベルト (監督の)お母さんの経験から、子どものためにとやっていますが結局置いてきぼりになってる。
―本作は自らのプロダクションで撮ったのですね。
監督 両親を離婚させたいという設定には多くのプロデューサーが興味を持ってくれました。だけど監督第1作の『Di Tutti I Colori(原題)』では、自分の作りたいように表現できなかったという後悔があります。2作目は自分の子供のように、言いたいことを大事にしたいと思っていました。本作の制作会社Reset Productionは私と私の母がプロデューサーで、母は弁護士でもあります。離婚を専門にしているので、事情に通じており、一緒に書いたり、プロデュースをしました。自分で出資をするので、リスクは高いですが、好きなようにやりたいと思いました。
―本作は監督のお気に入りの作品ですね。
監督 今回がワールドプレミアですからこの後どうなるのかは分かりません。いいスタートを切れたので幸運が続くように願っています。イタリアでは配給会社を待っていますが、国際セールスのエージェントは決まりました。
ロベルト ドイツのセールスの会社が、僕たちからアプローチしなかったのに、このことを聞きつけて見たいと連絡をくれて国際セールスをすることになりました。
監督 他の国ではリメイクの話も上がっています。
―お母さんは歌がうまいのですが、どのようにキャスティングをしましたか?
監督 あれは彼女の声じゃないんです(笑)リアルに見えますね。
ロベルト 歌っているのは音楽を担当した方の奥さんです。
監督 おばあちゃんを演じているエレオノラ・ジョルジは、本作では一番有名で、イタリアでは誰でも知っている女優です。80年代は特に有名でした。(お母さんを演じる)ビアンカ(・ナッピ)はとてもいい女優さんで、演技がナチュラルですよね。
―主人公の男の子(ガブリエーレ・カプリオ)の演技が良かったですね。
監督 彼は声優で、イタリアではピノキオの声とかを演じています。テレビでは知られていますが、映画は初出演です。
ロベルト 数学の先生役の人がガブリエーレくんの父親で声優です。
監督 本作の俳優はとてもよかったです。家を取り仕切ってるお母さん、責任を負いたくないというありがちなお父さん(マルコ・コッチ)、パパの上司(ニンニ・ブルスケッタ)もおもしろい。
―監督はカメオ出演していますが、演じてみていかがでしたか?
監督 気づきましたか?(笑)演じるのは難しかったです。私は音楽を書きますし、いろいろなことをやってきました。でも演技はやったことがなかったのです。20年俳優をやっている人と一緒にやるわけです。
ロベルト 僕はどの役かわかりますか?
監督 プレイボーイですよ(笑)
―ロベルトさんはキャストとスタッフを兼ねていますが、スタッフとしてはどのようなことをしていましたか?
ロベルト 自分で出演するか決まる前から、最初から関わっていました。
監督 だから役を作りました。
ロベルト もともと20年間俳優をやっています。最初からこのプロジェクトに参加していたので、自分が出演するときは、自分とは似つかわしくない役なので、撮影の3日前からセットに行かずに、ホテルに滞在して役柄を没頭しました。この役はとても満足しています。
―ところで、日本ではどこか行ったところはありますか?
監督 昨日、鎌倉と東京に行きました。
ロベルト 大仏を見ました。
監督 全部を見るわけにはいかなですが。
ロベルト イタリアとは全然違うから興味深いです。
監督 英語がなかなか通じなくて、道を聞くのが難しかったです。でも、僕たちも日本語はわからないので。
―日本で公開されることになったら、どのような方に見てほしいですか?
監督 この映画が日本でプレミアできて、これからがスタートです。特に子どもがいる家族に見てもらいたいです。でも、家族がいるいないに関わらず、誰にでも見てもらいたいです。暴力シーンもないし、安全な映画だと思います。誰が見ても、気分を害することはないと思います。ぜひ日本でも上映してもらいたいです。
―今後撮りたい作品はありますか?
監督 もし本作が成功したらシリーズ化したいです。本当に夫婦に危機が訪れて離婚したいと思うが、今度はマルティーノが別れないように頑張るという物語。もちろん本作の成功にかかっています。
―劇場公開されることを願って、日本の観客にメッセージをお願いします。
監督 親がプレゼントするのはイタリアの現象かもしれないけど、日本の方にもわかるものだと思います。10歳だといろいろ分かるけど、親の保護が必要な年齢です。多様性があり、いろいろな生き方があり、いじめも描いています。境遇の違いもあります。だから訴えるものはあるので、どこか響くものがあると思います。